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書翰
しょかん
副題046 大正十一年九月(推定) 小島勗宛
046 たいしょうじゅういちねんくがつ(すいてい) こじまつとむあて
著者横光 利一
文字遣い旧字旧仮名
底本 「定本 横光利一全集 第十六卷」 河出書房新社
1987(昭和62)年12月20日
入力者橘美花
校正者奥野未悠
公開 / 更新2020-06-24 / 2020-05-27
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

46 九月(推定)小島勗宛

くはしく種々のことを書けば、非常に長くなると思へたので、いつか温泉へ行つて、頭のはつきりとしたとき、ひまにかかつて、誤解をされないやうに丁寧にはつきり書かうと思つてゐた。しかし、たうとうそれも出來ないらしい。そんなこともしてゐられなくなつたので、云ふことは前後するかもしれないが書かねばならないと思ふ。しかし、書くとすると、種々、君の怒るやうなこと、君の腹のたつことを必然的に書いて行かなければならないにちがひないと思ふ。
君と僕との爭ひは、傍の者からはとても容易に理解出來ないものだと云ふことは君も知つてゐることと思ふ。それだけに、もし君が僕の云ひたいことを理解してやらうと云ふ好意が少しでもあつたなら、傍の第三者の言葉など先づ、僕のためばかりにさへも訊かないやうにしてくれればありがたい。さて、何から云つてよいか分らないが、僕は、少くとも僕だけは、君と僕との、かかる氣持ちの行き違ひは、爭ひは、やがて、起きるときが來るにちがひないと云ふことを、四年前に氣附いてゐた。四年前と云ふと、君が兵隊に行く二年前である。僕は君ちやんを愛し出し、さうして、他人にいかにしても、與へることが出來ないと云ふ氣持ちになつたとき、既に君と僕とのかかる爭ひは、必ず來ることと豫想してゐた。それは君と僕との性格の違ひから。さうして、此の爭ひは必ずある時期が來れば遲かれ早かれ、癒るときが來ると思つてゐた。それまでには、僕と君とは非常にはなれて了はなければならないと思つてゐた。非常に長い時間が必要である。それは恐らく一生の問題になるにちがひないと思はれる。君と僕との和解は、恐らく、まだまだ十年はかかるやうに思はれる。しかし、僕は君のハートの中に正義心の強さを誰からよりも強く、いかなるときにも認めてゐた。僕は、君と僕との爭ひを、非人格的なものにはしたくはなかつた。たゞエゴの強さの爭ひであるやうに思はれる。しかし、僕は、君と僕との爭ひの根本をなしてゐる君ちやんの問題については、君から多くの誤解を受けて來た。また、誤解を與へるやうな多くのことを僕はなして來た。僕は自分の行ひが、他から見て、君から見て、決して正しくいいものであつたとは思はないし、また、それを主張しようとしない。が、自分から見て、決して惡かつたとは思はれなく、云ひたくもなかつた。このため、君をして、「横光は自分が惡い惡いと云ひながら、ほんたうにさう感じてゐる所が一寸もない。」と云はしめたことも無理ではないと思ふ。僕は自分の行爲を惡いとは思へないのだ。しかし、君に僕の氣持ちを云つたからとて、一寸やそつとでは、とても分らない、と思へばこそ、絶えず僕は君にあやまつて來たのであつた。僕は君に逆らつたことが(議論以外に)さうなかつたと記憶する。絶えず非常な自尊心を傷けてあやまつて來た。それは何ぜか、それは後の氣持ちは君には…

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