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幾度目かの最期
いくどめかのさいご
著者久坂 葉子
文字遣い新字新仮名
底本 「幾度目かの最期」 講談社文芸文庫、講談社
2005(平成17)年12月10日
初出「VIKING47・VILLON4 共同刊行号」1953(昭和28)年3月
入力者kompass
校正者The Creative CAT
公開 / 更新2019-12-31 / 2020-01-01
長さの目安約 74 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 熊野の小母さんへ。
 あなたには、四五年も昔から、よくお便りしてます。けれど、こんな殺風景な紙に、宿命的な味気ない字を書くことは、はじめてです。いつも、信州の紙とか、色のついたアート紙に、或いはかすれた筆文字で、或いは、もっと、面白くきれいな字――いやこれは、おこがましいかな。でも、あなたは、私の字を好んでくれました。――で、お便りしたものです。何故、この紙を選んだか、おわかりですか。実は、あなたにたよりしている気持で、私は、おそらく今度こそ本当の最後の仕事を、真剣になって綴ろうというのです。これは富士正晴氏の手に渡るでしょう。そして、彼の意志かあわれみで同人雑誌のVILLONか、VIKINGに印刷されるでしょう。その活字が、あなたの手許におくられるだろうと思います。VIKINGの同人、宇野氏が、あなたを御存知だから。私はこれを、二十二日、つい六日前に書いた、鋏と布と型、という舞台のものを、もう一度、あらためて、私の最後の仕事にするつもりです。これは、小母さんに関係のないことだけど、その芝居は、もし上演されるなら、私が暫くなりとも籍をおいて、既に愛着を抱いていた、現代演劇研究所で、上演してほしいものです。役は、マネキンを川本さんに、彼女は音楽的な感覚をもっているし、舞踊が出来るんだ。ついでに、私ののぞみもつけ度したら、おどけたアクションをつけてほしいこと。デザイナー諏訪子は、私のはじめての芝居、女達の、久良久をしてくれた、前田さんに、音楽は、徳永さんにしてほしい。それから、演出は、くるみ座の北村さんが、してくれるなら、ぜひしてほしいのだ。私がするつもりだった。彼は、おそらくやってくれるだろう。この原稿も(芝居の)、VILLONかVIKINGに、富士さんは、のっけてくれるだろう。
 小母さん。この原稿全部、あなたの興味ないものかも知れないことだけど、とりあえずよんで下さい。
 今、九時二十分頃でしょう。今日は十二月二十八日。御宅へ御邪魔して、神戸へ戻り、メコちゃんという、屋台の焼とり屋で、一本コップ酒、四本の、かわつきのとりを食べ、そこから、七十円で帰ったの。メコちゃんのところで、私は、こんな会話を、知らない客と致しました。その客は、三人居て、盃一ぱいの酒と、ピース二本くれたんです。
「どっか、近いところで、雪がうんとつもっているところ、知らない?」
「神鍋」
「スキーしにゆくんじゃないの、雪見にゆくの、人の居ないところ」
 私は、そう云いながら、真白につもった雪の中を、ゴウ然とはしる汽車の音を、想像しました。
 一人の男は、簡単な地図をかいてくれました。神鍋の近所なんです。だけど私は、その地方に魅力がなかったもんで、びわ湖の附近に、静かな雪のところがないかと云いました。別の一人が、
「タケオがいいよ」
 タケオとは武生とかくんだそうで、米原の先、北陸線だそ…

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