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「槐多の歌へる」序
「かいたのうたえる」じょ
作品ID59904
著者山本 鼎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「槐多の歌へる」 アルス
1920(大正9)年6月20日
入力者かな とよみ
校正者樋井川
公開 / 更新2022-10-08 / 2022-09-26
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


槐多の詩集がとう/\出る。
――彼れにむけられた僚友らの強い愛のしるしだ。
それは死者を吊ふのでも、世に亡友を記念するのでもなく、
あの彈力ある觸を万人の胸に傳へ、あらゆる慾望の芽に、創造的情※[#「執/れんが」、U+24360、1-5]を灌漑しやうとする藝術家の愛である。
私は山崎省三君の手元に蒐められた一と重ねの遺稿を見て、其豐富な量に驚いた。
一と綴をとつて披くと短い詩の處で、それが忽ち私を魅了した。
自由で[#挿絵]リユーのいゝ言葉、面白い契機、卒直に快活に表現された性慾――それは蓋し槐多の藝術、詩歌、日常生活のすべてに顯れた獨特な生采である。
槐多の歌へるは、冷靜な認識ではない、溌剌無垢な直覺であり、自由富饒な空想である。
すべてそれは、止み難き攝受のため息く吐息であつた。
稀に見る藝術上の鋭敏な味覺と、それにふさはしい貪臠な胃袋を有つた彼れは、廿三の晩年に、はやくもあらゆるものを味ひつくした觀がある。
そして秩序に脅かされねばならぬ、人生の或重くるしい時期を目の前にして、怖るゝが如く又親しむが如くに、死の方へ慌しく驅け込んでしまつたのであつた。
槐多よ、君の言葉が今多くの人に讀まれやうとして居る。「畜生! やりきれないなあ」と、顏一つぱいに笑ひ給へ。(九年六月六日)
山本 鼎



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