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雪だるま
ゆきだるま |
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作品ID | 59997 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2021-01-27 / 2020-12-27 |
長さの目安 | 約 14 ページ(500字/頁で計算) |
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「ぼくのからだの中で、ミシミシ音がするぞ。まったく、すばらしく寒いや!」と、雪だるまが言いました。「風がピューピュー吹きつけて、まるで命を吹きこんでくれようとしているようだ。だが、あの光ってるやつは、いったい、どこへ行くんだろう? あんなにギラギラにらんでいるぞ!」雪だるまが、そう言っているのは、お日さまのことでした。お日さまは、いまちょうど、しずもうとするところだったのです。「あんなやつが、いくらまばたきさせようったってまばたきなんかするもんか。まだまだこのかけらが、しっかりと目にくっついているんだからな」
雪だるまの目になっているのは、大きな三角の形をした、二枚の屋根がわらのかけらだったのです。口は、古い、こわれた草かきでできていました。ですから、雪だるまには、歯もあったわけです。
この雪だるまは、男の子たちが、うれしそうに、ばんざい、とさけんだのといっしょに、生れてきたのでした。そしてそのとき、そりの鈴の音や、むちの音が、ちょうど挨拶でもするように、雪だるまをむかえてくれました。
お日さまがしずみました。すると、青い空に、まんまるい大きなお月さまが、明るく、美しくのぼりました。
「今度はまた、あんなちがったほうから出てきたぞ」と、雪だるまが言いました。雪だるまは、また出てきたのが、お日さまだと思ったのでした。「でも、いいや。あいつが、ぼくをギラギラにらむのだけは、やめさしてやったぞ。ああして、あんな高いとこにぶらさがって、光ってるんなら光っているがいい。おかげで、ぼくは、自分のからだがよく見えるというもんだ。
さてと、どうしたら、からだを動かすことができるんだろうなあ。それさえわかったらなあ! ああ、なんとかして動いてみたい! もし動くことができたら、ぼくもあの男の子たちのやってたみたいに、氷の上をすべって行くんだけどなあ! だけど、どうして走ったらいいのか、わかりゃしないや」
「ワン! ワン!」そのとき、くさりにつながれている、年とったイヌが、ほえました。このイヌは、いくらか声がしゃがれていました。もっとも、まだ部屋の中に飼われて、ストーブの下に寝ころんでいたときから、そんなふうにしゃがれ声だったのです。「どうしたら走れるか、今に、お日さまが教えてくれるよ。わしはな、去年、おまえの先祖が教わってたのを見たんだし、それから、そのまた前の先祖も、やっぱり、同じように教わってたのを見たんだよ。ワン! ワン! そうして、みんな行っちゃったのさ」
「きみの言うことは、ぼくにはちっともわからないよ」と、雪だるまが言いました。「じゃあ、あんな上のほうにいるものが、ぼくに走り方を教えてくれるのかい?」雪だるまが、そう言っているのは、お月さまのことだったのです。「ほんとうにね、さっき、ぼくがじっと見ていたときは、あいつ、どんどん走っていたよ。だけど、今度はね、…