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![]() イーダちゃんのおはな |
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作品ID | 59998 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2020-08-04 / 2020-07-27 |
長さの目安 | 約 20 ページ(500字/頁で計算) |
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「あたしのお花がね、かわいそうに、すっかりしぼんでしまったのよ」と、イーダちゃんが言いました。「ゆうべは、とってもきれいだったのに、今は、どの花びらも、みんなしおれているの。どうしてかしら?」
イーダちゃんは、ソファに腰かけている学生さんに、こうたずねました。イーダちゃんは、この学生さんが大好きでした。だって、学生さんは、それはそれはおもしろいお話を、たくさんしてくれますからね。それに、おもしろい絵も、いろいろ、切りぬいてくれるのです。たとえば、ハート形の中で、かわいらしい女の人たちがダンスをしているところだの、いろいろなお花だの、それから、戸のあいたりしまったりする大きなお城だのを。ほんとうに、ゆかいな学生さんでした!
「きょうは、お花たち、どうしてこんなに元気がないの?」と、イーダちゃんは、もう一度聞きながら、すっかりしおれている花たばを見せました。
「うん、お花たちはね、気持がわるいんだよ」と、学生さんは言いました。「みんな、ゆうべ、舞踏会へ行っていたんで、きょうは、くたびれて、頭をぐったりたれているのさ」
「でも、お花は、ダンスなんかできやしないわ」と、イーダちゃんは言いました。
「ところが、できるんだよ」と、学生さんは言いました。「あたりが暗くなってね、ぼくたちみんなが寝てしまうと、おもしろそうにとびまわるんだよ。毎晩のように、舞踏会を開いているんだから」
「その舞踏会へは、子供は行けないの?」
「行けるとも」と、学生さんは言いました。「ちっちゃなヒナギクや、スズランだってね」
「いちばんきれいなお花たちは、どこでダンスをするの?」と、イーダちゃんがたずねました。
「イーダちゃんは、町の門の外にある、大きなお城へ行ったことがあるだろう。ほら、夏になると、王さまがおすまいになるところ。お花がたくさん咲いているお庭もあったじゃないの。あそこのお池には、ハクチョウもいたね。イーダちゃんがパンくずをやると、みんな、イーダちゃんのほうへおよいできたっけね。あそこで舞踏会があるんだよ。ほんとうだよ」
「あたし、きのう、おかあさんといっしょに、あのお庭へ行ったのよ」と、イーダちゃんは言いました。「でも、木の葉は、すっかり落ちてしまって、お花なんか一つもなかったわ。みんな、どこへ行っちゃったのかしら。夏、行ったときには、あんなにたくさんあったのに」
「みんな、お城の中にいるんだよ」と、学生さんは言いました。「王さまやお役人たちが町へ帰ってしまうとね、お花たちは、すぐにお庭からお城の中へかけこんで、ゆかいにあそぶんだよ。イーダちゃんに、そういうところを一度見せてあげたいねえ。いちばんきれいなバラの花が二つ、玉座について、王さまとお妃さまになるの。すると、まっかなケイトウが、両側にずらりと並んで、おじぎをするよ。これが、おつきのものというわけさ。
それから、すごく…