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手療法一則
てりょうじいっそく |
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作品ID | 60009 |
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副題 | (二月例会席上談話) (にがつれいかいせきじょうだんわ) |
著者 | 荻野 吟子 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「婦人衞生會雜誌第七號」 私立大日本婦人衞生會 1889(明治22)年6月1日 |
入力者 | フクポー |
校正者 | かな とよみ |
公開 / 更新 | 2021-06-23 / 2021-05-27 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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食物の事に就て、少し感じた事が有りますから貴婦人方に御噺し致しますが、今宮本さんから、段々の御噺しが有ツて、兒護婦の不注意より、子供が種々の者を飮み込み、夫れが爲めに大邊危險が有るとの事ですが、私が田舍に居りまする時分、之れに[#「之れに」はママ]就て實見した事が有りますから、夫れをば申し上げ樣と存じます、夫れは二歳斗りの子供が、文久錢とも云ふべき錢を呑んだのです、恰度私も其節其塲に居りましたが、何も心得ませんから唯慌てる計り、何か振舞のあツた時ですから、大勢人も居りましたが、何れも青くなり、手を束ねて見て居る迄の事で、醫者を呼びますにも、間に合はぬと云ふので、大層に遽てました。其時村の内に一人の老人がありまして、其塲に驅け付けて參り、錢を呑んだと云ふ話を聞たが就ては、私が實驗があるから、其れをば何卒行ツて見て呉れ、其法と申すは、子供の兩足を捕へて倒さにつるし、顏を外に向けて、膝もて背を撞くと云ふのですさうすれば、曾ての實驗に依て出るから、之を遣ツて見て呉れと熱心に勸めました、折節孰れも途方に暮れて居りましたから、取敢へず之を遣ツて見樣と云ふので、父親が子供の兩足を捕へて中に釣し、外面を向かして膝で脊髓を撞きました、トコロガ、容易く其錢を口から吐出しました。其時集ツて居ツた、一同の者の喜びは何の位で有りましたか、商家抔では多く錢を取扱かつて居るから、醫者を呼ぶも間に合はぬと云ふ樣な時は、實驗上隨分用ひて宜敷き法の樣に存じます。今濱田宮本兩先生の御話に就て、私が已徃に於て感じましたる事を一寸貴方所に申し上げましたのです。