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おくさま狐の御婚礼
おくさまぎつねのごこんれい
作品ID60028
著者グリム ヴィルヘルム・カール / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール
翻訳者金田 鬼一
文字遣い新字新仮名
底本 「完訳 グリム童話集(二)〔全五冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1979(昭和54)年8月16日
入力者かな とよみ
校正者山本洋一
公開 / 更新2021-11-01 / 2022-03-06
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一番めの話

 むかしむかし、あるところに尻尾の九本ある古狐がいました。古狐は、じぶんのおくさまが心がわりしたのではないかとうたぐって、おくさまを試してみることにしました。ふるぎつねは、腰かけ台の下へ大の字なりになって、ぴくりとも動かず、まるでぶち殺された鼠のように、死んだふりをしていたのです。
 おくさま狐は、じぶんのおへやへ行って、とじこもりました。おくさま狐のお女中のおじょうさん猫は、おへっついの上にすわって、ぐつぐつ、煮ものをしていました。
 やがて、ふる狐の死んだことが知れわたると、おくさま狐をおよめさんにほしいという者が、いくたりも会いにきました。お女中は、だれだか、戸口に立って、こつこつと戸をたたいているのを聞きつけました。立って行って、戸をあけてみると、としの若い狐が一ぴきいて、こう言いました、

「なにしてらっしゃるの? おじょうさん猫ちゃん、
ねてらっしゃるの? おきてらっしゃるの?」

 おじょうさん猫が、へんじをしました、

「あたしなら、ねてやしないわ、おきてるわ。
なにしているのか、知りたいの?
ビールをぐつぐつ煮えたてて、バタを、なかへ入れてるの、
あなた、あたしのお客になって?」

「いや、ありがとう、おじょうさん」と、狐が言いました、「おくさまぎつねは、どうしていらっしゃるの?」
 お女中はへんじをしました、

「おくさま狐は、おへやにおいで、
かなしかなしと泣きはらす
かわいいお目え目は紅絹のように紅い、
お狐のふるとのさまがお逝去じゃもの」

「おじょうさん、どうかおくさまにおっしゃってください、わかい狐がまいりましたってね、その狐が、おくさまに、およめさんになっていただきたいのですってね」
「おわかさま、かしこまりました」

ぴたり、ぱたりと猫が行く、
とたん、ぱたんと戸があいた、
「おきつねおくさま、いらしって?」
「いるわよ、ねこちゃん、いることよ」
「おくさまを、およめにほしいというかたが」
「あらまあ、そうお、どんなごようす?」

「そのかたもね、おかくれになった殿さま狐みたように、黄いろいような青いようなみごとなしっぽが、九本あること?」
「どういたしまして」と、猫がへんじをしました、「しっぽは、たった一本でございます」
「では、そのかたは御免だわ」
 おじょうさん猫はおへやを出て、おむこさんになりたい狐をかえしました。
 それから間もなく、また戸をたたくものがありました。出てみると、別の狐が戸口にいて、おくさま狐をおよめさんにほしいと言うのです。これは、しっぽが二本でしたけれども、まえのと似たりよったりの目にあいました。それからも、つづいてほかのが来て、尻尾も一本ずつふえていましたが、どれもこれも、追っぱらわれました。ただ、いちばんおしまいに来たのだけは、ふるとのさまのお狐とそっくり、九尾の狐でした。やもめ…

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