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死神の名づけ親(第二話)
しにがみのなづけおや(だいにわ)
作品ID60031
著者グリム ヴィルヘルム・カール / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール
翻訳者金田 鬼一
文字遣い新字新仮名
底本 「完訳 グリム童話集(二)〔全五冊〕」 岩波文庫、岩波書店
1979(昭和54)年8月16日
入力者かな とよみ
校正者noriko saito
公開 / 更新2020-12-10 / 2020-11-27
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある貧しい男にむすこが生まれましたが、なにしろひどい貧乏なので、名づけ親になってやろうという人が、たれひとり見つかりません。一軒一軒あるいてみましたけれど、むだぼねおりでした。そこで、ことによると、だれか通りがかりの人が気のどくに思って承知してくれるかもしれないと、そんなことを当てにして、大通へ腰をおろしました。
 まもなくやってきたのは、けだかい服装をした美しい女です。びんぼう人が用事をたのんでみると、そういう御用ならやってあげましょうと、はっきりうけあってくれました。
「お名まえをおっしゃっていただきたいのですが」と、男が言いました、「あたくしは、みじめなくらしをしてはおりますが、あなたがどなたかうかがわないうちは、名づけ親になっていたただく[#「いたただく」はママ]わけにいかないので」
 女は、金糸で星がいくつもぬいとりしてある面ぎぬを、ぱっとはらいのけて、
「わたしは聖母マリアです」と言いました。
「それでは、あなたには用がない」と、男がこたえました、「あなたのむすこさんは、正しいことをしない、みんなを、えこひいきなく一様にあつかうことをしない。さもなければ、わたしにしても、こんなに貧乏で、ふしあわせなはずはないのさ」
 聖母はとおりすぎました。それから間もなく来たのは、また女で、せい高の、おそろしい痩せっぽち、黒い面ぎぬにつつまれていました。びんぼう人が例の用事をたのむと、女は、名づけ親になると約束しました。
「だが、あなたはどなたですか」と、男が言いました、「あたくしは他人さまからさげすまれ、なさけないくらしはしておりますが、それだと言って、あなたが正しいことをなさるかたでなければ、名づけ親にはなっていただけませんので」
「あたしは、死神だよ」
 へんなかたちをしたものは、こう返事をするなり、黒いヴェールを、ぱっとうしろへはねて、かさかさにひからびた骸骨を見せました。
「あなたなら、大歓迎ですよ」と、びんぼう人が言いました、「あなたは、だれにむかっても正しいかたで、だれかれの差別なく、おんなじに扱いなさるからね。是非いらしって、せがれの洗礼をやっていただきます」
 死神は頼まれたとおりのことをして、それから男に言いました、
「おまえのむすこが大きくなったら、あたしが医者にしてやる。むすこが病人のところへ呼ばれるたんびに、あたしも出かけていく。あたしが病人のあたまのそばに立っていたら、病人は死ぬしるし、あたしが寝台のあしのほうに立っていたら、病人はまだ死なないというなによりの証拠だから、むすこはそのつもりで手あてをすればいい」
 そのとおりでした。青年はお医者さまになりました。そして、名づけ親が枕もとに立っているのが見えると、もう手おくれです、御病人はもうたすかりませんと言って、たち去ります。名づけ親が足のほうに立っていると、思いつきのいいかげん…

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