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道化玉座
どうけぎょくざ
作品ID60066
原題A MUMMER'S THRONE
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1911年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2019-10-18 / 2020-12-18
長さの目安約 84 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章 王の花嫁
 アストリア大使主催の園遊会が開かれ、ほとんどの招待客が居残っていた。大多数の目的は若きモンテナナ国王に拝謁するためだ。おおむね、モンテナナ国王は期待に応えた。
 常に紫雲のように恋愛の香りが漂う王宮、それがいや増したのはモンテナナ国のフリッツ王が西洋で后を探すと公言したからだ。ご存知のようにモンテナナ国は小国、ロシアとトルコの間に位置する。あとは山がち、風光明媚、最貧国、時々革命の機運に晒される。
 だが賢い行政官が、なんとか国家をうまく統制し、国王の専用財布に年二十五万ポンド程、補充していた。国王の自慢は陸軍が二万人、海軍が老朽巡洋艦三隻、旧式小型砲艦二隻だが、こんな厳しい時代では世の常として、かなり有望な玉の輿である。
 あとは美男、ひげを剃り、少年のようで、見かけはオクスフォード出かケンブリッジ出の弁護士といった面持ちで、怪奇な国王とか、ぞっとする首狩族の末裔じゃない。
 フリッツ王の訪英目的が知れた途端、多くの令嬢が心躍らせ、ほとんどの欧州大使が少し動揺した。だって結局の所、モンテナナ国とは利害関係があるし、国際会議で幾度も争いの元になったからだ。
 慣例に従い、国王は一人で来ていない。監視役の伯爵、ラッツィン大将がそばにいた。歴史を習ったものなら誰も知っているのがこの著名な武人、過去にバルカン半島で重要任務を行った。
 ラッツィン大将はいま貴人と立ち話中で、話題はモンテナナ国とフリッツ王のことだった。
 ラッツィン大将が意味深に言った。
「閣下、重大責任ですな。確かに魅力的な若者ですが、所詮若者は若者ですよ。それに、そのう、本国は退屈ですし……」
 貴人がささやいた。
「大将、国王は大変なやんちゃだとか、少なくともそう聞きましたが」
「ええ。英国の教育のせいですな。もちろんハロー校ですよ。そこで、いとこのフロリゼル公と一緒でした。たぶん歳相応の責任感はあるでしょうが、ともかく、お坊ちゃん育ちですから、何もかも子供同然ですな」
 貴人が薄笑いして言った。
「立憲君主はそうでなくちゃ。たぶん甘んじてすべてを賢い総理に任すでしょう。そうすべきなのは父上が……」
 大将が小さく咳払いすると、貴人がすぐ話題を変えたわけは若輩の現フリッツ王が危険人物じゃなくても、前国王の過去には触れない方がずっといいからだ。
 いま老軍人の顔が険しく引きつった。白い立派な口ひげが逆立っている。正確に言えばラッツィン大将は晩年をひたすら穏便に過ごしてきた。たとえ野望があっても全部胸にしまってきた。
 芝生の上に直立不動で立ち、顔が新緑の木陰で半分隠れている。貴人の目には老大将の顔が真っ青になっているように見えた。不安げに訊いた。
「大将、ご気分が悪いのでは?」
「閣下、古傷ですな。サースプルート地方で受けた頭傷が治りません。脳圧が高いのですよ。医者は脳圧迫と…

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