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西洋科学は素晴らしい
せいようかがくはすばらしい
作品ID60081
原題WESTERN SCIENCE IS SO WONDERFUL
著者スミス コードウェイナー
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2019-12-25 / 2019-11-22
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一人の火星人と
三人の共産主義者の
出任せ話でございます

 火星人は御影石の小さな断崖の上に座っていた。そよ風を楽しめるように小ぶりな樅の木の形態を取っている。尖った常緑樹の葉の間を風が気持ちよく吹いていった。
 崖下に一人のアメリカ人が立っていた。火星人が目にした初めてのアメリカ人である。
 アメリカ人はポケットから魅惑的なまでに巧妙な装置を取り出した。金属製の小箱で、ノズルが持ち上がると即座に炎を発した。彼は苦もなくこの神秘の装置から、至福を齎す薬草の詰まった円筒に火を移した。火星人はこれがアメリカ人たちがシガレットと呼ぶものであることを理解した。アメリカ人がシガレットに火をつけ終わった時、彼は形態を変えた。今度は身長五メートルの紅顔白髯の中国人扇動家の姿である。彼はアメリカ人に向かって英語で叫んだ。「ハロー、フレンド!」
 見上げたアメリカ人の顎は今にも外れそうになった。
 火星人は崖を降り、静かにアメリカ人に近寄って行った。あまり怖がらせないようにゆっくりと。
 それにもかかわらず、アメリカ人は随分気に病んだようだ。というものこんな事を言ったから「お前は現実ではないな? そんなことあるもんか。それともひょっとして?」
 火星人はそっとアメリカ人の心の中を覗いて、身長五メートルの中国人扇動家像はアメリカ人の日常心理において安心を齎すものではないと理解した。彼はアメリカ人の心の中で安心感のあるイメージを探した。まずそのアメリカ人の母親のイメージが見つかったので、すぐさまその姿に変態してこう答えた「現実とは何、ダーリン?」
 するとアメリカ人は僅かに青ざめて片手で両目を覆った。火星人は再度アメリカ人の心に入り込み、いささか混乱したイメージを探り当てた。
 アメリカ人が目を開くと、今度は火星人が若い赤十字の看護婦の姿を取って、ストリップショーを繰り広げている最中だった。歓心を誘うための手順だったにも拘らず、アメリカ人は安心しなかった。恐怖が怒りに転じ、彼は言った「お前は一体何者だ?」
 火星人の親切心もここまでだった。オックスフォードあがりの中国国民党軍大将軍の姿となり、イギリス訛り丸出しでこう言った。「私はこの地に棲む若干超自然的な『モノ』として知られておる。気にしないでくれたら嬉しい。西洋科学は実に素晴らしい。よって私は貴方の手の中にある魅力的な機械を調べなければならない。少し話をする時間をいただけないだろうか。」
 アメリカ人の心に混乱したイメージの断片が浮かぶのが見て取れた。何やら「禁酒法」とかいうものや、別の「酒を控える」とかいうものと関連がありそうだった。そして何度も繰り返す「なぜこの俺がこんな所に?」という疑問や。
 その間、火星人はライターを検めた。
 アメリカ人の手に戻しても、彼は硬直したままだった。
「実によくできた魔法だ」と火星人。「…

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