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感覚の殻
かんかくのから
作品ID60082
原題THE SHELL OF SENSE
著者ダンバー オリヴィア・ハワード
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2020-01-06 / 2019-12-26
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 そこは耐え難いほど変わっていなかった。黒っぽくまとめられた薄暗い部屋。一つのものから別のものへと視線を向けるたびに痛みが襲った。私の地上での日々を取り巻いていた心地よく馴染み深いものども。私の本質が信じられないほど変わってしまっていても、それらは鋭く私の注意を穿った。本棚から本を抜き出した跡がそのまま。世話をしてきた羊歯の繊細な指が尚も光に向かって徒に伸びようとしている。私の物だった小さな時計は、老女の一人語りのようにチクタクと心地よい柔音を立て続けて。
 変わっていない――初めはそう見えたかも。だが、やがて些細な違いが私を責めるようになった。窓はきっちり締まり過ぎている。私は家をとても冷んやりさせていた。テリーザが暖かい部屋を好むのを知っていたのに。裁縫箱の中が乱れている。こんなにも小さな事柄に痛めつけられるなんて、ひどく不条理だ。そして、これが初めて経験した影への変容だったから、自分自身の感情が奇妙に変わっていくことに戸惑った。私を包むものからかくも乖離しているというのに、初めの内この場所には人間臭い馴染みがあるように見え、愛着ゆえに壁に頬擦りできそうな気がしていた。なのに惨めにも次の瞬間には、新たに感じるキリキリとした奇妙な鋭さを意識しないではいられなかった。どうして彼らには耐えられるのだろう――私自身ほんとうにこんなものを我慢してきたのか?――いま窓から感じる不快な影響力を。どぎつい光と色に風の形が見えなくなってしまうし、濁った喧騒のために下の庭で薔薇が花開く音が聞こえなくなってしまう。こんなものに耐えて?
 なのにテリーザは何一つ気にしているようではなかった。そう、このお嬢ちゃんは散らかっていても平気の平左なのだ。この娘はここしばらく私の机――私の机――に居座って、それがどういう風の吹き回しか、言われなくても分りきっている。こんな憂鬱な書状を書く機会は以前にはなかったはずだ。といって本気でテリーザに小言をいうつもりもなかったと思う。というのもあの娘がメモを書いている時に中身を見たことがあり、それはおそらく私のものほど投げやりではなかったから。私の目の前で最後まで書き終えると、机の上に積まれた黒枠の便箋の山にそれを乗せた。かわいそうに! だからといって、そばで何日も何日も、何年も何年も生きてきて、私の妹がこれほど深い情けを秘めていたと気づくことは一度もなかった。私たちはいつもさりげない愛情を交わすだけで、思い出してみればどんな時でも、私はテリーザが破滅的な情熱なしに気楽に生きていけるのを見て、あの娘にとってそれは本当に幸運なことだと考えていた。なにしろ私は自分の幸せを妹に明け渡したりはしなかったのだから……そして、いま初めて私は彼女の真の姿を見ていた……本当にこれがテリーザなのか、この抑制されつつ縺れ合う擾乱が? 人が一つの事柄を苛酷なまでに明瞭に…

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