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私の処女出版
わたしのしょじょしゅっぱん
作品ID60087
著者小山 清
文字遣い新字旧仮名
底本 「小山清全集」 筑摩書房
1999(平成11)年11月10日
初出「東京新聞 夕刊」1954(昭和29)年7月7日
入力者時雨
校正者びーどる
公開 / 更新2021-10-04 / 2021-09-27
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 私の処女出版、と言つてもそれはついこなひだのことである。丁度一年まへに、私は初めて、「落穂拾ひ」といふ貧しい小説集を出した。そして私は分不相応な好意を受けた。けれども、好意といふものは、本来さういふものなのであらう。道ばたの雑草に露が降りるやうな。私もまた、これまでに書いたものは、みんな不満である。けれども、愛着といふことは、これはまた別であらう。私は、この本の中にある作品のどれにも、愛着を持つてゐる。「わが師への書」と「聖アンデルセン」は、故太宰治が読んでくれたものである。また「朴歯の下駄」は井伏鱒二氏が「落穂拾ひ」は亀井勝一郎氏が、それぞれ題名をつけて下さつた。そのほかの作品も、みんな、隠れた好意のこもつてゐるものである。また、自分の最初の小説集が、太宰さんと関係の深かつた筑摩書房から出版されたといふことも、私にはうれしいことの一つである。私はこの本に、ついあとがきを書かなかつたが、この文章がその代りみたいになつてしまつた。
(昭和二十九年七月『東京新聞』)



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