えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
![]() あさめし |
|
作品ID | 60090 |
---|---|
著者 | 山本 周五郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「暗がりの弁当」 河出文庫、河出書房新社 2018(平成30)年6月20日 |
初出 | 「小説新潮」1964(昭和39)年8月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2025-05-23 / 2025-05-18 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
幾たびか書いたことだが、私は朝めしは自分で作って喰べる。ベーコンかハムと卵に生ま野菜、パン一片か、オートミールに牛乳という献立で、十年以上も飽きずにやってきた。家族とは別に仕事場で寝起きしているのだから、朝の自炊はやむを得ないし、それはすっかり身に付いた習慣になっていたのだが、このごろはそれが面倒になってきた。ベーコンやハムをいため、卵をフライする、と考えるだけで食欲がそっぽを向いてしまい、つい牛乳二本くらいでごまかすような場合が多くなったのである。朝起きるとすぐ仕事にかかる、という習性が原因かもしれないし、老境にはいった証拠かもしれない。もしも後者だとするとばかげたはなしで、去年よってたかって私のことを六十だ六十だといい張ったジャーナリストたちの責任だと思う。――けれども、今朝はベーコン・エッグを喰べた、これが続けばざまあみろである。
「小説新潮」(昭和三十九年八月)