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金銭について
きんせんについて
作品ID60097
著者山本 周五郎
文字遣い新字新仮名
底本 「暗がりの弁当」 河出文庫、河出書房新社
2018(平成30)年6月20日
初出「労働文化」労働文化社、1961(昭和36)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者noriko saito
公開 / 更新2026-06-02 / 2026-06-01
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

――勤倹貯蓄は美徳でない――

問 ふるくから、勤倹貯蓄というのは、人間の美徳のひとつであるといわれるんですが、どうお考えになりますか?
答 勤倹貯蓄が美徳だということはよく言われてきたことですが、たいへんこれには言葉のアヤが多いので、実際には美徳でもなんでもないと私は考えます。貯蓄というものは、ある家庭が、生活に必要なものを充分に使い、生活をエンジョイする方面にも充分に使い、そうして余ったものを貯めるのが、貯蓄だと私は思うのでありまして、着るものをツメる、飲むものをツメる、食べるものをツメるというふうにして貯める金は、貯蓄ではなくして、命のあっちを削り、こっちを削れ、という吝嗇のすすめだと私は考えます。貯蓄とは本来そういうものではないというふうに私は考えているので、勤倹というような言葉、これは最大多数の衆智からでた言葉ではなくって、支配階級からふり下された言葉だと私は解釈しています。
問 そうすると、爪に火をともすような生活をしながら金を貯めるのは、つまらないことであるとおっしゃるのですね。世の中には、そういう生活態度をきわめて意義があるというように考えている人間もいると思うのですが――
答 私は爪に火をともすような生活をして意義を見出しているような人も、事実、存在すると思うのですが、それがその人にとって最もうるわしく、充実した、極めてエキサイティングな情熱で打ちこんでいるのであれば、他所のひとが、奴は爪に火をともしているとかケチだとかいうのは余計なことなんであると思います。
 たとえば蚤のサーカスというのがありますが、蚤をあそこまで訓練するということを考えると、だいたいならば、その馬鹿馬鹿しさにあきれるだろうと思います。この場合、爪に火をともす生活と、蚤のサーカスをこしらえることとは、決して区別すべき問題ではないんで、人間があるひとつのことに情熱をついやすということになれば、それは金を貯めようと蚤のサーカスをつくろうと同じだと考えます。

――金銭は附帯的なもの――

問 すると、先生は金銭というものをどうお考えになりますか?
答 金銭というものは、あってしばしば便利である。しかし、なければ絶対に生活できないものではない。ただ生活するのには、便宜上あるほうが、たまたま便利である、という程度のものであると思う。金銭というものは、こちらの欲しいもの、向うの欲しいものをお互いに交換しあう際、いちいち秤にかけて計量するよりも、その代価として考えられた手っ取り早い流通手段である。……きわめて原始的な経済論なんですが、そういったものなんですから金銭それ自身には何らの意味もないので、これを以て役にたたせるか、たたせないかということは、人間の各人の暮し方、ないしは金銭に対する考え方によって決定することだと思います。金銭自身には何の意味もないと思います。
問 ――すると、…

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