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故郷の花
ふるさとのはな
作品ID60156
著者三好 達治
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第二卷」 筑摩書房
1965(昭和40)年2月15日
入力者榎木
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2021-08-23 / 2021-07-27
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


人はいさこころもしらすふるさとは花そむかしの香ににほひける
つらゆき


[#改ページ]

鳶なく
――『故郷の花』序に代へて


日暮におそく
時雨うつ窓はや暗きに
何のこころか
半霄に鳶啼く
その聲するどく
しはがれ
三度かなしげに啼きて盤桓す
波浪いよいよ聲たかく
一日すでに暮れたり
ああ地上は安息のかげふかく昏きに
ひとり羽うち叫ぶこゑ
わが屋上を遠く飛び去るを聽く

すみれぐさ


春の潮相逐ふうへにおちかかる
落日の ――いま落日の赤きさなかに
われは見つ
かよわき花のすみれぐさひとつ咲けるを
もろげなるうなじ高くかかげ
ちひさきものもほこりかにひとり咲けるを
ここすぎて
われはいづこに歸るべきふるさともなき
落日の赤きさなかに――

をちかたびと


をちかたのひとはをちかた
はるふかきにはにねむれば
はとのなくこゑにもめざむ
うたたねのゆめのみじかさ

をちかたのひとはをちかた
はるふかきにはのおちばを
もせばもゆほのほはしばし
めにしみていたきけむりや

春のあはれ


春のあはれはわがかげの
ひそかにかよふ松林
松のちちれをひろひつつ
はるかにひとを思ふかな

春のあはれはわがかげを
めぐりて飛べるしじみ蝶
すみれの花ゆまひたちて
ゆくへはしらず波の上に

春のあはれはわがかげの
ひそかにいこふ松林
かばかり青き海の上に
松のちちれをひろふかな

空琴


いかなればのらすそらごと
いのちをもみをもをしめと

いのちをもみをもをしみて
かへるべきかたやいづかた

ゆくへなきあすををしめと
さるをなほのらすそらごと

はるかぜにとらるるさへや
ただをしむきみがおんそで

みづにうかべど


みづにうかべど空をとぶ
ふたつのつばさぬらさじと
かろきたくみのかもめどり

こころををしむ旅人の
あはれゆかしき江のみづに
あとなきときは流れつつ

浮雲


空にうかべる雲なれば
よるべはなけれ
くれなゐの
いろにそまりつ
いろにそまりつ
沖の島の
空にうかべる
あかね雲
ただたまゆらのよそほひに
身をほろぼすも
うき雲の
さだめなりかし
さだめなりかし
沖の鳥の
こころなきさへ
ひとめぐり

ふらここ


わが庭の松のしづ枝に
むなしただふらここ二つ

うちかけてしばしあそびし
あまの子のすがたは見えず

たれびとの窓とや見まし
そよ風のふきかよふのみ

さるすべり花ちるところ
ふらここの二つかかれり

白き墓地


秋の田の黄なるに
夕べの霧遠くたなびき
彼方の丘に白き墓地見ゆ
松青きかげ
墓標みな白く黄昏にうかみて
いまこの風景に
しづかなる音樂の起りたゆたふごとき心地す
一度びここをへて
われは行へもしらぬ旅人なれども
ものなべてほのなつかしく
こを故わかず忘れがたき日のひと時と思ひたたずむ
路のべに
秋の螢のただ…

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