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諜報部
ちょうほうぶ
作品ID60168
原題A SECRET SERVICE
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1913年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2019-12-19 / 2021-12-04
長さの目安約 262 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

主な登場人物    備考
アイダ       娘
バンストン     父
エイビス      結婚相手
エルシ       服飾仕立師
バレリイ      上流社会の令嬢
ウォルタ卿     英国ベルリン大使
グレイ       大使の個人秘書
グラスゴウ     殿下、諜報部長
トラフォード警部補 警部補
ヘプバン編集長   編集長
アーノット     新聞記者
ハースコート    裏切りスパイ
トラスコット先生  医者
スコット次官    外務省・事務次官
ゼナ王女      ボーン国王の妹
ルペラ男爵     石油採掘権を持つ
ジェフリ      ウォルタ卿の息子
ボーン国王     ゼナ王女の兄
デントン      現場監督
グラハム警部補   警部補
バロフ所長     刑務所の所長
イズリアルス    ユダヤ宝石商

第一章 ロンドン砂漠
 アイダが見上げたうっとうしい煙突群からは黒煙がたなびき、あたかも我が身の希望と怖れを暗示しているかのようで、生まれて初めて怖くなった。でも嫌なら終止符を打つことも出来た。便せん一枚と一ペニ切手があれば生活苦を終わらせることが出来る。ああ、それだけはまっぴらだ。そう思いながら眺めた煙は鉛色の三月の空に絶えず渦巻いている。
 アイダは生まれも育ちも上流階級だが、妙な立場だった。現実は、最後の有り金と別れ、稼ぐ見込みもない。さらにいろんなもめ事に加え、数週間も家賃未払いで、あす払わなければ路上に追い出される。
 状況は最初から絶望的だった。それを承知で家出した。眼の前の困窮を過小評価したわけじゃない。だがこれが最善で、父の強要する愛無き結婚よりずっといい。父との戦いは、やぶれかぶれだった。
 父に啖呵を切った。
「絶対に結婚しません。この家から出て自活します」
 父のバンストンが悠々とポートワインを飲んだ。冷徹な美男子が妙な笑顔をたたえ、こう答えた。
「ようく分った、アイダ。邪魔はしない。状況はよく説明した。お前がエイビスと結婚しなければわしは破産する。贅沢品をすべて手放し、この由緒ある豪邸を売り払い、どこか外国のみすぼらしい川辺で余生を終わる羽目になる。もちろんお前には関係のないことだ。お前にはこの二十年間、欲しいものを何でも与えたが、ちょっと見返りが欲しいと言っただけで拒絶だ。エイビスが昨夜言ったが、お前が婚約に同意した時点でわしを助けてくれるそうだ。この程度のことに同意しないのだから全く分らん」
「前言を撤回しろですか、お父様」
「当然だろ。アイダ、それがどうした。心変わりは女の特権じゃないか。エイビスは厳しいから、わしを追い詰めたが、わしは少しも泣き言はいわない。ちょっとわしにツキがあったら、逆に追い込めた。それもこれも勝負ごとだし、わしと同じぐらいシティにおればお前にも分ろう。エイビスの何が気にいらんのか…

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