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進化論より見たる沖縄の廃藩置県
しんかろんよりみたるおきなわのはいはんちけん
作品ID60240
著者伊波 普猷
文字遣い新字新仮名
底本 「古琉球」 岩波文庫、岩波書店
2000(平成12)年12月15日
初出「沖縄新聞」1909(明治42)年12月12日
入力者砂場清隆
校正者かたこ
公開 / 更新2021-04-25 / 2021-03-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 沖縄在来の豚は小さいが、この頃舶来したバークシャーは大きい。しかし二者は至って縁の近い方で、その共同の祖先はもと南支那にいたということである。同一の祖先から出た豚でも、甲乙と相隔った所にもって行くと、地味や気候の関係で、それから生れる仔の間に多少の相違が出来、なお五代十代と時の経つにつれて変化するが、それに人間の力が加わると、その変化がもっと甚しくなる。さて範囲の広い英国では多くある豚の中から、理想的のものを選び出して、これを繁殖の目的に用い、その生んだ仔の中から更に理想的のものを選び出して繁殖させたので、豚が次第次第に改良されて今日吾々が見るような大きなバークシャーとなったが、範囲の狭い沖縄では飼養法が悪い上その繁殖方をただ老いぼれた種豚に一任しておいたので、何時まで経っても改良されないで今日に至ったのである。(味はバークシャーよりも在来種がずっとよく、改良されてかえって味がまずくなっているが。)沖縄でその他の動物の比較的矮小な理由原因もまたここにあると思う。然らば沖縄人の体格はどんなものであろう。他府県人に対して遜色があるかどうかは知らないが、人種学上沖縄人の身長の平均数は他府県人のそれよりも少し低いということになっている。鳥居龍蔵氏の調査によれば日本の男子の身長の平均数は一米五九で、琉球の男子の身長の平均数は一米五八であるということである。その理由原因は決して一通りに限った訳ではなく、種々の事情があって、そうなったのであろうが、久しく絶海の孤島に住居していて、余り他の血液を混じなかったことや、島内でも盛に血族結婚が行われたことや、その他制度の上から来た習慣などのためにそうなったのであろう。(沖縄の中でも古来他人種が余計に入り込んだ那覇や、雌雄淘汰が盛んに行われた首里の城下には立派な体格の人が多い。)ところが明治十二年の廃藩置県は退化の途を辿っていた沖縄人を再び進化の途に向わしめた。すなわちこの時以来内地人はどしどし沖縄に這入って来る、沖縄人はぞろぞろ内地へ出て行く、士族は田舎へ下って行く、田舎人は都会に集って来る、といったように、沖縄がかきまぜられた。そうすると、自然と雑婚が始まり、雌雄淘汰が行われる、段々と理想的体格の子が生れるのは当然のことである。実に旧制度の破壊と共に、永い間の圧迫が取去られたので、今まで縮んでいた沖縄人は延び始めたのである。三十年前に比べると沖縄人の身長の平均数は確かに増しているに相違ない。生物学者の実験によれば、一個の単細胞が分裂して幾千かの細胞が増殖すると、次第にその形も小さくなり、その勢力も弱くなり、はじめには活溌に運動していた所のものが、漸々不活溌となり、なおそのままに打っ遣っておけば、周囲には充分の食物があるとしても、終には多く分裂したものが全く死滅してしまう。ところがかく微弱となったものでも、もしその時他の細胞より…

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