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四日闇夜
よっかやみよ
作品ID60318
副題ロンドン危機シリーズ・2
ロンドンききシリーズ・に
原題The Four Days’ Night
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1903年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2020-02-02 / 2020-01-27
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#挿絵]


[#ページの左右中央]


ロンドン霧物語――昼間が四日闇夜に変身


[#改ページ]




 ロンドンおよび英仏海峡の天気予報は乾燥、晴れ、温暖。さらに記事をハックネスが深く読み進むと、欧州全域は概して高気圧が続き、西は気圧が上がり、海は穏やかで、今年この時季にしては格別高温とか。
 ハックネスはロンドン大学の理学士、漏らさず読んだ。気象研究が宗旨みたいなものだ。
 居間裏の研究室には各種の奇妙な機器があり、太陽光や風圧や空気密度などを測る。長年ハックネスの信頼は厚く、ロンドンの霧を正確に予測できた。この霧たるや、とびきりの重要事項であった。
 摩訶不思議な方法で霧の専門家を自称していた。いつか名前を売り出そうと思っていたのは霧消名人、別名、民衆の大恩人。
 遂に待望の機会が到来したようだ。十一月に入り、なま温かく曇天多湿。既に一、二回深い霧がロンドンに降りていた。毎度のことで避けようがない。
 ハックネスの確信では当地で危機が起こり、いつか国家的な惨事を引き起こす。観測や記録から確実に、ロンドンは来たるべき二十四時間以内に濃霧に巻き込まれる。
 大誤算しなければ、次の霧はとてつもなく深くなるはず。まさかその卑劣な霞がガウワー通りに見えたのは、朝食についたときだった。
[#挿絵]
 扉が開き、男が無断で乱入してきた。小柄、そり上げた鋭い顔、鷲鼻、独善的な鼻眼鏡。ハックネス先生と似てなくもないが、無いのは沈思黙考。ひらひらと素手に握った新聞紙を旗のように振って叫んだ。
「ハックネス先生、来ましたよ。いつか来る運命だったんです。テレグラフ新聞の最新版のここです。出かけて見に行くべきです。覚えていますか、一八九八年の冬、石油船が爆発した日を。先生とウエストゲートでゴルフしていました」
 と言って、肘掛椅子に飛び乗った。
[#挿絵]
 ハックネス先生が大きくうなずいた。
「エルドレッド君、忘れるもんか。もっとも船の名前は忘れたがね。大きな鉄船で夜明けごろ発火した。船長と乗組員は一人として見つからなかったな」
「全く音がせず、大量の黒煙がすさまじい影響を及ぼしました。日没の場面を覚えていますか。アルプス山脈が六個も積み重なったようでした。大壮観のみならず、身の毛がよだつほどぞっとするものでした。あのとき先生が何とおっしゃったか覚えていますか」
 エルドレッドの物言いで、先生は何か感ずるものがあった。
「よく覚えておる。目に焼き付いているのは煤けてドロドロの物質が大きな傘になり突然、大都市を霧で包んだ。霧の為に煤が下降し広がった。思い出せば、もしあの船がテムズ川の、そうだなあ、グリニッジに居たらどうなったやら」
[#挿絵]
「先生は今日の濃霧を予想してなかったですか」
「確かに予想した。最新の実験装置が裏付けておる。なんで訊くんだ」
「けさ早く川下…

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