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おばけの声
おばけのこえ
作品ID60320
著者柳田 国男
文字遣い新字新仮名
底本 「妖怪談義」 講談社学術文庫、講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「家庭朝日 第一巻第六号」東京朝日新聞社発行所、1931(昭和6)年8月1日
入力者青井優佳
校正者津村田悟
公開 / 更新2022-06-02 / 2022-05-27
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 オバケ研究の専門雑誌が、最近に盛岡から出ようとしている。又宮崎県の郷土志資料には、あの地方の妖怪変化の目録が、先々月から連載せられている。ばけ物はもちろん至って古い世相の一つではあるが、それを観ようとする態度だけがこの頃やっとのことで新しくなり始めたのである。私たちの見た所では、人が今日の問題などと珍しがるものでも、たいていは以前何度となく、だれかが考えてみたものばかりだ。今頃だしぬけに現われてくるという問題は、もうこの人生にはない方が当り前である。単にこれまで気のつかなかった実例、それを機縁として新しく見直そうとする心持、今一つはむしろ久しい間ほったらかしていたという事実が、次々に問題を新たにしてくれるのである。この意味からいうと、ばけ物なども大いに新しい部類に属する。たとえばわれわれがこれに興味を抱いているというと、すぐ「あるものかないものか」を問おうとする人が、まだ世間には充満しているのである。こうした一方からしか問題に近よることのできぬ人たちが、いわば現代のためにいろいろのおもしろい題目を貯蔵しておいてくれたので、新たな怪談と観察との学問が、ちょうど起こらずにはおられぬように世の中はなっている。



 最初まだ当分のうちは、いわゆるまじめな人々は相手になってくれぬかも知れない。しかし気楽で時間の多い子供とか年寄とかが、仲間に入ってくるならばそれで結構である。何でもできるだけ単純な目標、ことにもっとも実際的なる毎日の言葉からたどって行くのが便利なようである。私はある時同志の青年を集めて試みに「ばけ物は何と鳴くか」を比較してみたことがあった。東京などの子供は戯れに人をおどす時、口を大きく開き尖らせた十本の指を顔のそばへ持って来て、オーバーケーとうなるように発音するのが普通のようだが、これは近頃になっての改造かと思われる。というわけはオバケという日本語は、そう古くからのものでないからである。関東の近県から、奥羽北陸の広い地域にわたって、化物の鳴き声は牛のように、モーというのだと思っている人は多い。それがどういうわけかは考えてみた人もあるまいが、大よそ人間のしたりいったりすることに理由のないものがあろうはずがない。もし今以てそれを解説しあたわずとすれば、すなわちその根源にはいまだ究められざる事実があるのである。
 多くの動物の名がその鳴き声からつけられているごとく、オバケもモーと鳴く地方では、たいていは又それに近い語を以て呼ばれている。例えば秋田ではモコ、外南部ではアモコ、岩手県も中央部ではモンコ、それから海岸の方に向かうとモッコ又はモーコで、あるいは昔蒙古人を怖れていた時代に、そういい始めたのだろうという説さえある。しかし人間の言葉はそんな学者くさい意見などには頓着なしに、土地が変ればどしどしと変化して行っている。今日私たちの知っているだけでも…

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