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死の土壌
しのどじょう
副題ロンドン危機シリーズ・3
ロンドンききシリーズ・さん
原題The Dust of Death
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1903年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2020-03-02 / 2020-03-19
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#ページの左右中央]


二〇世紀疾病物語


[#改ページ]


 玄関のベルがせわしくリンリンと鳴った。明らかに急患だ。ヒューバート医師が直々に、高名な医者がすることでもなかろうに、出迎えた時刻はなんと真夜中。背の高い上品なご婦人が夜会服に身を包み、玄関に転がり込んだ。髪のダイアモンドがキラキラ揺れ、顔が恐怖にひきつっている。
「ヒューバート先生ですね。フィリンガムと申します。ご存知の画家の妻です。すぐ来ていただけませんか。夫が……わたくしは台所にいたのですが……アトリエで……ああ、お願い、すぐいらして」
 ヒューバート医師は余計なことを聞かなかった。フィリンガム氏は偉大な肖像画家で、名声やら姿をよく知っている。というのも同氏の家とアトリエが近くにあるからだ。
 デヴォンシャイア公園地域は芸術家の溜まり場、小ぎれいな郊外にあり、建築家や庭師の見せ場でもあった。一〇年前はただの湿地に過ぎなかった。今では自慢げに話すことに、デヴォンシャイア公園に住んでいる。
[#挿絵]
 ヒューバート医師は車寄せを歩いて行き、刈りこんだ芝生を通り、フィリンガム夫人の腕を抱え、正面扉から中にはいった。夫人が右側の扉を指差した。消耗しきって話せない。
 笠付き電球が辺りを照らし、古びたオーク家具や甲冑があり、軍服姿の大きな肖像画が一枚、画架に寄りかけてある。描きかけの人物画は異国の荘厳な軍服を着ている。
 ヒューバート医師が周囲をざっと見た。重大な関心はうしろの暖炉の前で仰向けに倒れている人物だ。きれいにひげをそり、芸術家然とした感性的な顔がドス黒く青ずみ、喉が大きくはれている。
「死んでませんか」
 と尋ねるフィリンガム夫人の声は消え入りそう。
 ヒューバート医師が出来ることは、とりみだしたご婦人を安心させること。フィリンガム氏はまだ息がある。ヒューバート医師は照明ランプの傘を外して、電球をもち、長い電線を伸ばし、患者の口の上にかざし、なんとか喉の奥に光を照射した。
[#挿絵]
「ジフテリアですね。確実にレイブル型です。権威筋の中にはレイブル博士の発見をあざ笑う者もいます。私は四年間先生の助手を勤めたのでよく知ってます。幸いにも処置方法が分かりますし、二例成功しました」
 自宅に帰り、数分で息せき切って戻って来た。妙な針のような器具を手に持っている。ソケットから電球を外し、替わりに電線付きのプラグをねじ込んだ。そして無造作にテーブルの上を片づけて、患者をよっこらしょっと乗せた。
「ではランプをこのようにしっかり持っててください。うまい、生来の看護婦ですよ。電気針を喉に刺します」
 ヒューバート医師が多言なのはひとえに助手が神経質なためであり、他の何ものでもない。台上の病人が処置でぶるっ、肺が膨らみ、震えながらほーっと息を吐いた。心臓は弱いながらも規則的に動いている。病人が目…

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