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かげろふ断章
かげろうだんしょう
作品ID60440
著者原 民喜
文字遣い新字旧仮名
底本 「原民喜全詩集」 岩波文庫、岩波書店
2015(平成27)年7月16日
初出蟻「少年詩人 四号」1924(大正13)年11月<br>机「春鶯囀 二号」1926(大正15)年<br>冬「春鶯囀 二号」1926(大正15)年<br>春望「春鶯囀 創刊号」1926(大正15)年1月<br>山「春鶯囀 創刊号」1926(大正15)年1月<br>梢「春鶯囀 創刊号」1926(大正15)年1月<br>海「近代文学」1951(昭和26)年8月号<br>偶作「春鶯囀 三号」1926(大正15)年3月<br>春雨「春鶯囀 三号」1926(大正15)年3月<br>冬晴「春鶯囀 四号」1926(大正15)年5月<br>春の昼「春鶯囀 四号」1926(大正15)年5月<br>旅の雨「沈丁花 一号」1926(大正15)年9月<br>朝の闇「霹靂 一巻」1927(昭和2)年6月<br>なぜ怖いか「沈丁花 一号」1926(大正15)年9月<br>饗宴「詩稿」1937(昭和12)年1月号<br>散歩(「散文詩」の章中のもの)「詩稿」1937(昭和12)年1月号<br>朝昼晩「詩風土」1947(昭和22)年7月号<br>詠嘆二章「メッカ」1936(昭和11)年3月号<br>青葉の頃「メッカ」1936(昭和11)年5月号<br>(以上を除くすべて)「原民喜詩集」青木文庫、青木書店、1956(昭和31)年8月
入力者村並秀昭
校正者竹井真
公開 / 更新2021-03-13 / 2021-02-26
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

昨日の雨






散歩

誰も居てはいけない
そして樹がなけらねば
さうでなけらねば
どうして私がこの寂しい心を
愛でられようか




遠くの路を人が時時通る
影は蟻のやうに小さい
私は蟻だと思つて眺める
幼い児が泣いた眼で見るやうに
それをぼんやり考へてゐる




何もしない
日は過ぎてゐる
あの山は
いつも遠いい


四月

起きもしない
外はまばゆい
何だか静かに
失はれてゆく


眺望

それは眺めるために
山にかかつてゐたが
はるか向うに家があるなど
考へてゐると
もう消えてしまつたまつ白のうす雲だ


遅春

まどろんでゐると
屋根に葉が揺れてゐた
その音は微けく
もう考へるすべもなかつた




みなぎれる空に
小鳥飛ぶ
さえざえと昼は明るく
鳥のみ動きて影はなし




愛でようとして
ためいきの交はる
ここの川辺は
茫としてゐる




川の水は流れてゐる
なんといふこともない
来てみれば
やがて
ひそかに帰りたくなる


小春日

樹はみどりだつた
坂の上は橙色だ
ほかに何があつたか
もう思ひ出さぬ
ただ いい気持で歩いてゐた


秋空

一すぢの坂は遙けく
その果てに見る空の青さ
坂の上に空が
秋空が遠いい


遠景

幼いのか
山はひらたい
ぼつちりと
陽が紅らんだ




こはれた景色に
夕ぐれはよい
色のない場末を
そよそよと歩けば


波紋

すべてはぼんやりとした
ぼんやりとして空も青い
水の上に波紋はかすか
すなほなる想ひに耽ける


愛憐

ひつそりと 枝にはじけつ
はじけつ
空に映れる
青める雪は


月夜

雲や霧が白い
ほの白い
路やそして家も
ところどころにある


淡景

淡い色の
たのしみか
そのままに
樹樹は並んだ


疲れ

雪のなかを歩いて来た
まつ白な路を見て
すやすやしながら
大そう うつかりしてゐた


京にて ――悼詩

眺めさせや
甍の霜
夢のごとおもひつつ
この霜のかくも美しき


春望

つれづれに流れる雲は
美しさをまして行く
春陽の野山に
今日は来て遊んだ


旅懐

山水の後には
空がある
空は春のいたるところに
浅浅と残されてゐる




影こそ薄く
思ひは重し
霞のなかの山なれば
山に隠るる山なれば




ふと見し梢の
優しかる
みどり煙りぬ
ささやかに




私の一つ身がいとしい
雲もいとしい
時は過ぎず
うつうつと空にある


川の断章



川に似て
音もない
川のほとり
川のほとりの




空の色
寂び異なるか
水を映して
水にも映り




思ひは凍けて
川のひとすぢとなる




遠かれば
川は潜むか
流るるか
悠久として




現世の川に
つながるるもの
現世の川に
ながれゆくもの




ねむれるにあらずや

仄かにし…

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