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警戒すべき日本
けいかいすべきにほん |
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作品ID | 60473 |
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著者 | 押川 春浪 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「《復録》日本大雑誌 明治篇」 流動出版 1979(昭和54)年12月10日改装初版 |
初出 | 「冒険世界」博文館、1910(明治43)年12月号 |
入力者 | sogo |
校正者 | フクポー |
公開 / 更新 | 2021-11-16 / 2021-10-27 |
長さの目安 | 約 13 ページ(500字/頁で計算) |
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世界の大勢を見よ=英雄主義=米国魂=日本の正命=自信力と自負心=戦勝の賜物は何か=国民の意気=危険なる社会主義=淫猥なる自然主義=陋劣極る平凡主義=非愛国者を葬れ
(一)文明的戰國時代
▲現時の日本は、安心すべき日本に非ず、警戒すべき日本なり。逸楽を夢想すべき時代に非ず。起つて戦ふべき時代なり。諸君は世界の大勢を見ずや。欧米列国を実利主義一点張の如くに思惟せし時代は既に過去つたり。彼等は富力を過度に尊重すること依然たりと雖も、同時に英雄主義を忘るゝ者にあらざる也。今や世界の形勢は、恰も文明的戦国時代の観ある時に当り意気剛壮の士は起つて叫ぶ、我こそ世界第一の国民たらざる可からずと。而して心ある国民の頭脳には、勇健なる思想と尚武の気風とは次第/\に侵み渡りつゝある也。
▲殊に太平洋の波濤を隔てゝ三千里、彼の巨大なる新興国米国を見よ。米国は黄金崇拝主義の本家本元なること云ふ迄もなけれど、彼等は単に黄金崇拝のみを以て満足し居る国民にあらず。余輩の僻見かは知らねど、彼等は富力に於ても、智力に於ても、武力に於ても、全世界を圧倒せんと努力しつゝあるに似たり。殊に英邁勇敢なるルーズヴエルト氏が大統領に就任せし時以来、一部国民の精神は著しく其感化を受けしものゝ如く、表面に黄金を崇拝する事に変りはなけれど、其精神に於ては英雄崇拝を以て本義と為し或者は尚武練胆の気風を皷吹し、或者は米国魂に加ふるに日本魂の精萃をすら吸収し伝播せんと企てつゝあるが如し。
今日日本武士道に関する書籍が、米国一部人士間の最愛読書たる現象をば、諸君は如何に見るか。米国をハイカラの製造元の如くにのみ思惟するは誤れり。然れば現時の米国海軍――其軍人は左迄で勇壮ならざるべし。多くの雇兵より成れる陸軍は敢て恐るゝに足らざるべし。然れども今より十年後、二十年後、或は三十年後に至つても、米国の陸海軍は今日と同断なりと思はゞ、兵家の所謂油断は大敵なり。我国に取つて、後悔臍を噛むとも猶ほ及ばざる事件無しと云ふべからず、之れ一米国に対してのみ云ふにあらず。欧洲列強又た然り。
(二)日本の生命は何か
▲今日以後所謂文明的戦国時代は永く継続すべく、外交に於て到底解決せざる事は、遂に戦争に訴ふるの外はなければ、列強はます/\競つて兵器の改良発明に苦心し、軍備の拡張に焦慮する事は云ふ迄もなく、而して軍備の拡張は原則として、其国の富力に比例すべければ、遺憾ながら我国より遙かに富力に於て勝れる欧米列強は、常に我国よりも多くの戦艦、多くの大砲、多くの飛行機を有するものと見做さゞるべからず、加ふるに彼等にして、従来我国民が有せし如き勇烈なる武魂を有するに至らば、我国民は果して枕を高うして眠るを得べきや否や。我国が日清戦争に於て日露戦争に於て、世界の歴史を飾るべき光栄ある大勝を得しは、兵器の力彼に勝りしが為にあらず、黄金の力彼より大なり…