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売薬ファン
ばいやくファン
作品ID60474
著者古川 緑波
文字遣い旧字旧仮名
底本 「文藝春秋 昭和三十年二月號」 文藝春秋新社
1955(昭和30)年2月1日
初出「文藝春秋 昭和三十年二月號」文藝春秋新社、1955(昭和30)年2月1日
入力者sogo
校正者岡崎麻衣
公開 / 更新2022-08-13 / 2022-07-27
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 先に言つて置く。僕は、賣藥ファンといふ奴、それも、ミーちやんハーちやん的のファンで、理窟も何もない、たゞ、いろんな藥を服みたくつてしようがない性分である。
 たとへば、錠劑の、眞つ赤な色が氣に入つたとか、グリーンが美しいから、好きだとか言つて、愛用するといふくちだ。
 隨分、幼稚で、お話にならない。
 今でも、毎日五六種類から、十種類ぐらゐの賣藥を服む。
 何時頃から、かういふ癖がついたのか。
 幼少の頃は、實父が醫者で、賣藥といふものは一切服ませないし、買ふことも禁じられてゐた。
 その反動で、小さい時から、懷中良藥仁丹、ゼム、カオール、清心丹の類から、寶丹などといふ藥を、そつと買つて、内證で服んでゐた。
 これは、隱れて煙草をのむやうな、よろこびがあつたやうである。
 尤も、それらの、懷中良藥は、藥といふよりも、お菓子のやうなもので、いまの、チュウインガムの役目を果してゐたのだと思ふが――
 それから段々大人になつてから、胃の藥、何の藥と、新藥の廣告を見ると、買はずにはゐられなくなるやうになり、友人たちも、「頭が痛いが、何を服んだらいゝか」とか「何といふ藥が効くか」といふ風に、僕に訊くやうになつて來た。
 その賣藥ファンも、一番強く活動したのは、戰爭中だ。
 藥なども、段々無くなるといふ頃、地方へ旅でもすると、僕は自ら藥屋へ行つて、藥の買ひ溜めをした。
 僕は、不眠症なので、一番主な狙ひは、催眠藥であつたが、その他何でも、珍らしいものがあれば買つた。
 例へば、痔の藥でも、こつちは痔など患つてゐないのに、買つてしまふのだ。
 地方へ行くと、藥屋さんの奧の間へ上り込んで、あれもこれもと買ひ込む。戰爭中にして、百圓以上の買ひものは、ザラだつた。
 そして、買ひ溜めた藥は、本棚の一つを空けて、藥棚とし、色々な藥を並べて、眺めて喜んでゐた。
 藥が古くなれば、効かなくなつてしまふとか、何とかさういふことはおかまひなしの、全く、無邪氣なものだつた。
 そんな風だから、ヒロポンなんかを知つたのも、一番早い方だらう。注射ではなく、錠劑の奴だ。確か、海軍へ慰問に行つた時に、貰つたのが始めだつたと思ふ。
 まだ誰も知らない頃なので、徹夜の麻雀の時など、ひそかに服んで、大いに勝つた記憶がある。
 然し、後年ヒロポン大流行となつても、僕は全然、その害を受けなかつたのは、注射つてものが嫌ひだつたおかげだと思ふ。
 僕の賣藥ファンは、專ら服みぐすりなので、注射は痛いから、嫌ひだつたので、注射藥といふものは、インシュリン以外買ひ溜めしなかつた。
 インシュリンは、糖尿病患者だから、要心のために買つて置いたのである。
 糖尿病の藥も、最近では、色々と現はれたので、勿論いろ/\服んでゐる。
 然し、食ふことの養生が出來ないので、一向治らない。
 戰後は、糖尿病の藥ばかりではなく、新藥…

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