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野球界奇怪事 早慶紛争回顧録
やきゅうかいきかいごと そうけいふんそうかいころく
作品ID60478
著者吉岡 信敬
文字遣い新字旧仮名
底本 「《復録》日本大雑誌 明治篇」 流動出版
1979(昭和54)年12月10日改装初版
初出「武侠世界」1911(明治44)年12月23日号
入力者sogo
校正者フクポー
公開 / 更新2021-12-07 / 2021-11-29
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

▲咄!早慶野球戦は永久に復活する能はざるか
▲何故に早慶野球戦は中止せられしか???
▲余は天下に告白す其中止の顛末は斯くの如し
▲之れ偽らざる告白なり赤裸々の真相なり

▲咄!咄!学生界の大恨事

 日本野球界は勿論、学生界に取つて最大不祥事件の一なる、早慶両大学野球戦中止の事あつてから、恰度満六年になる。其間幾度か復活の事は議せられ、或は先輩の声となり、或は選手の希望となり、名士の斡旋となり、輿論の調停と迄でなつたが、此の乱れに乱れし感情の糸は容易に解くに由もなかつた。然るに昨四十四年秋に至つて、周囲及び当事者間の試合復活の熱望は極点に達し、早大から数回目の挑戦に接して、漸く慶軍運動各部委員会は復活の前提として、嚮に学祖福沢先生の墳墓に誓つた。誓言、即ち以後断じて早大とは競技せずてふ決議を取消して了つた。残るものは即ち復活其物である。
 天下は驚喜して悦んだが、夫れも束の間の夢、所謂慶大理事会なるものは、一議の下に復活案を否定して仕舞つた。茲に至つて両校の間に繋つた一縷の連鎖すらも、全然切断せられて了つたのである。黙して何事をも語らざる慶大に対しては早大選手は爾後仮令箇人的にも、断じて慶大選手と語を交へずと迄で痛烈なる決議を為したと云ふ噂もある。嗚呼、斯かる有様では、最早永久に早慶試合の復活は絶望と見るの他はあるまい。嘆又嘆!学生界の為に此様な不埒千万な事はない。

▲何故の拒絶ぞ

 一体慶応が早大と試合をせぬ真意なるものは、常識を以ては如何しても僕等には解らない。全く怪物だ。過日も友人と話したんだが、今度と云ふ今度こそは幾ら慶応でも理由なしには拒まれない。今日の野球界を識つて居るものなら、真逆に黴の生えた弥次問題を今更担ぎ出す訳にも行くまいし、其の理由が見物だと思つて居ると、何うだ、又例の筆法で、瓢箪鯰の瞹昧千万な返事だ。人を馬鹿にするにも程がある。早大では彼程までに謂つて、七重の腰を八重に折つて迄で頼んでも、夫んな不道理な事を通すのなら、最う放つて置くが宜い。何うで駄目なんだ。千万遍繰返して申込んだ所で、要するに蛙の面へ水を掛ける様なもので、行れば行る程癪に触る斗りだ。其所で僕は宜しく早大は勿論、学生一般が如斯不道理な、又斯くの如く暴慢なる者に対して、相当の制裁を加へるが至当だと思ふ。今日と云ふ今日迄は、万一にも復活したらと云ふ希望を抱いて居たから、蟲を殺して黙つて居たが、駄目と定つたら最う誰に遠慮は無い。僕は両大学が抑も戟を交ゆるに至つた最所からの径路と、紛糾の真相とを詳細に談りたいと思ふ。僕等は何人も知る如く当年の弥次だ。紛糾の根本は即ち僕等に発したのであるから、此際直接の当事者たる僕等が、偽らざる当時の事実を満天下に告白するのは、野球界の為めは勿論、社会に対する義務である。僕は一点の誇張も仕なければ、一語の誹謗も仕ない。只当時の赤裸々たる事実…

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