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見えざる力
みえざるちから
作品ID60484
副題ロンドン危機シリーズ・5
ロンドンききシリーズ・ご
原題The Invisible Force
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1903(明治36)年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2020-05-01 / 2020-04-27
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


来たるべき事故物語――ロンドンの地下にトンネルが縦横に張り巡らされ、電気鉄道に使用された時、地下鉄で爆発が起こったら


[#改ページ]




 ようやくロンドン最大の問題が解決したようだ。交通の不便が解消された。もう一等乗客も、その十四倍もの三等乗客も、受難者同士、通勤に難儀しなくなった。
 もはや特定の郊外に人気が集中することはなく、陸の孤島もなくなった。後者はシティー到着までロンドン・スウィンドン間の急行列車と同じくらい時間がかかる。
 サービトンより通勤時間が短いという理由で、ブライトンに住む愉快な奇策は無くなった。地下鉄がすっかり解決してくれた。
[#挿絵]
 ロンドンの地下には少なくとも十二本の隧道が縦横に走っている。隧道は充分換気され、客車は明かりがこうこうと輝き、配管はきっちり整備、管理されている。
 一日中、駅構内は明るく、乗客があふれている。真夜中に近づくと運行が減り、午前一時半頃、最終列車が出る。終夜営業運転はまだだ。
 いま完全に静寂になったのが、明かりに照らされたトンネルの心壁。ボンド通りとセント・ジェームズ通りに埋設され、路線を形成し、テムズ川の下を潜り、ウェストミンスター橋のそばを通り、ゴミゴミしたニューイントンやウォルワース地区に至る。ここで屋根の一部を修理中だ。
[#挿絵]
 トンネルの心壁があかあかと照らされている。霧や闇の気配はない。電気を普通に使うようになって、ロンドンの暗闇が大分減った。
 いまや電気モーターがほとんどの工場や現場で使われている。従来通りガスも消費されるが、基本的に暖房用と加熱用だ。電熱器や電気調理器はまだ普及していない。それも時間の問題だ。
 青いアーク灯の炎に照らされて、十数人の男たちがトンネル心壁の天井で作業している。頭上の水道管になにか不都合が起こって、綱帯を巻いたコンクリートがひび割れ、水分が鋼帯を腐食し、大きな穴があいて、もろいコンクリートがレール上に落下した。一緒に天井の一部も崩落した。その結果、大小様々複雑な配管が露出している。
 新米の職人が親方に言った。
「オルガンの舌みたい。あれは何ですか」
「ガス、水道、電灯、電話の管だ。誰が知るか。ここが分岐だ」
「切ったら面白いでしょうね」
 と新米職人がニヤリ。
 親方はしれっとしている。むかしは腕白坊主だった。現場は予想よりずっと大仕事に見えた。大部隊に仕事を引き継ぐまでに塞がねばならない。新米はまだ管の束を眺めている。水道管を切ってトンネルを水没させたらどんなに面白いことか。
 一時間で足場組立が終わり、残骸を取り除いた。明日の夜、大部隊がやってきて、コンクリートをうち、天井に綱帯をとりつける。地下鉄は無人だ。まるで光り輝く空洞のように見え、あちこちでまばゆい光源に照らされている。
 しんと静まり人気が…

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