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諜報部秘話
ちょうほうぶひわ |
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作品ID | 60548 |
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副題 | 01 第1話 女の知恵 01 だいいちわ おんなのちえ |
原題 | THE ROMANCE OF THE SECRET SERVICE FUND, No I: By Woman's Wit |
著者 | ホワイト フレッド・M Ⓦ |
翻訳者 | 奥 増夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
初出 | 1900年 |
入力者 | 奥増夫 |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2020-07-02 / 2020-10-16 |
長さの目安 | 約 22 ページ(500字/頁で計算) |
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[#挿絵]
[#改ページ]
「獄悶絶死、獄悶絶死、獄悶絶死、獄悶絶死、新郎新婦、新郎新婦、獄悶絶死、獄悶絶死、獄悶絶死、獄悶絶死、新郎新婦、新郎新婦」
こんな狂気の繰り言がニュートン・ムーアの脳にこびりついたのはガタゴト突っ走る長距離鉄道のせい。鮮やかな金色と深紅の列車が蒸気に包まれ、白銀のレールをゴーッと走る――火の鉄路、人はこれを南東欧州急行と呼ぶ。
巨大な二連エンジンの音が、こうニュートン・ムーアにささやいた。実際、死に向かいつつあった。でも妻はもう新婦じゃないだろ? 英国諜報部で一番有能で信頼される官吏、ニュートン・ムーアが妻の唇にキスをして、白面を東に向けたのは部長命令だった。
部長のグレシャム・ウェルビー卿がムーアに告げた。
「過去最大の難事件だ。何があろうと本件の真相を知らなきゃいかん。さもないとリグビーやロングやマーサーら、三人と同じ運命だぞ。制約はつけない、君は諜報部の全資源が使える」
ムーアは身震いした。いつも強い妄想に取りつかれるたちで、見えぬ恐怖をこわがった。だがひとたび危険に直面すれば、決然と難事に立ち向かう。臆病者だと自称していたが、謙遜の割には剛胆だった。見えぬ危険を妄想で察知し、素晴らしい知恵が湧き、的確に切りぬけた。
「任務に耐えられるか?」
と部長のグレシャム卿が不意に問うた。
ムーアがビビって青白く見えたからだ。ムーアの鼻眼鏡からは、しっかり落ち着いている感じがする。
ムーアが答えた。
「本件をこなせる人材はいないでしょう。尋常じゃないですね。我が部局の最高諜報員が三人も変死しました。これまで解決の糸口すら掴めません。しかもまだ真相がほとんど分かりません」
「同意見だよ、ムーア君。まあ保証できるのはコンティギュア国のボリス大公が誠実だってことかな。また分かってるのはロシア人が宮廷権力を使って、インド国境で反乱を扇動して、マンキュニスへ武器を運んでいることだ。これを止めないと、遠からずインドで深刻な事態に直面する。前兆ではコンティギュア人がボリス大公に反旗を翻している。もし革命にでもなれば、ロシアが容赦なく侵攻し、国を併合する。そうなればどうなるかは私同様、君も分かるだろう」
ムーアが答えて、
「ええ。あの国はよく知っています。拙著の最新小説がコンティギュア国政治でした。ナタリー妃がとても喜んでくださいました。妃はきっと我々の側に付きます」
グレシャム卿が言われた。
「君は変な男だなあ。君の妄想に期待して、問題を解決してほしい。二度と悲劇はごめんだ。制約はない。誰が悪事を働いているか知らせてくれ。それ以上は求めない。当分、君が諜報部の事実上の親分だ」
*
こうしてムーアは目的地に到着しつつあった。同僚の勇敢な男が同じ任務で三人も消え、変死して、英国政府は無力にも誰も非難できない。
次々に襲…