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ポオ異界詩集
ポオいかいししゅう
作品ID60550
著者ポー エドガー・アラン
翻訳者大久保 ゆう
文字遣い新字新仮名
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新2020-10-07 / 2020-09-24
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

黄金郷

[#挿絵]

 立派な装備で
 勇ましい騎士が
日なたに陰に
 長旅のさなか
 歌いながら
黄金郷を探しゆく。

 ところが年老け――
 武者たるこの騎士といえど――
やがて心に影が
 射す、どうにも
 見当たらぬからだ、
黄金郷なる土地などは。

 そして力も
 とうとう尽きたとき
ふと出くわす、さすらう影――
 「影よ」と問う
 「どこにあるというのか――
この黄金郷なる地は?」

 「月詠の
 山々を越えて
影の谷をくだり
 がむしゃらに駆けるのだ」
 とその影は返す――
「黄金郷を探すというなら!」

[#挿絵]

不安ノ谷

[#挿絵]

むかし晴々と静かな小谷があった
そこに人の住まうことはなし
みな信じて戦に出向いたのだ
穏やかな目をした星々が
夜ごと居並ぶ空色の物見から
花畑を下に見守ってくれると
あいだに日がな赤の陽射しも
だらりと寝そべっていると。
いまは訪う者みな口にする
その哀しみの谷では不安になると。
何もかもが落ち着かない
なのにその地の雰囲気だけ
妙に静けさをたたえている。
ああ木をそよがせる風もないのに
木はわななく、霧の群島を
取り巻く凍える海のように!
ああ雲を流す風もないのに
雲はたなびく、不穏な天空を
そわそわと、朝から夕べまで、
下には一面の菫が広がり
さまざまな人の双眸のよう――
下では一面の百合がゆれ
名もなき墓の並ぶさなか滴っている!
一面ゆれて――そのかぐわしい葉先から
とこしえの雫が露と落ちる。
一面滴り――その華奢な茎から
絶え間ない涙が珠とこぼれる。

[#挿絵]

海没都市

[#挿絵]

見よ! 死の佇んでいる玉座を
そこは人知れぬひそやかな都市
霞なる西方の深い窪地にあり
善人悪人聖人極悪人みな
永遠の眠りについている。
その地の神殿宮殿そして塔は
(時に蝕まれながら揺るぎない塔!)
われらの知る何とも似ていない。
めぐりには、風巻にも忘れられ
なすすべなく空のもと
悒々たる水面が広がっている。

清らかな天空から射す光もなく
その街は長らく夜の時のまま、
されど海の蛍が灯りとなり
そこここの円塔をそっと照らし上げる――
ほのかな灯が頂塔へとふうわっと
円蓋へと――尖塔へと――王の間へと――
寺院へと――廃都然した城壁へと――
蔦の彫刻と石の花のある
久しく忘れられた影なす憩いの場へと――
そしてあまたの見事な神殿へと、
その小壁の花輪装飾に絡まるのは
月琴、菫、草の蔓。

なすすべなく空のもと
悒々たる水面が広がっている。
そこでは角櫓と影が溶け合い
何もかもが宙に浮かぶかのよう
かたや街に突き出た塔からは
死が巨人のごとく見下ろしている。

がらんの寺院と開け放しの墓地とが
明滅する波間にその口を覗かせる。
だがダイヤの目をした偶像など
豪奢なものはそこに見えぬ――
華やかな宝石まと…

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