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世に出るまで
よにでるまで
作品ID60569
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 15」 筑摩書房
1999(平成11)年10月20日
入力者toko
校正者持田和踏
公開 / 更新2022-02-17 / 2022-01-28
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は少年期にはスポーツに熱中していたので、小説なぞには興味がなく、立川文庫のほかにはスポーツ関係の読書が主であった。野球界という雑誌は当時からあったし、ファンという野球雑誌、それに陸上競技の雑誌もあった。しかし技術面の指針となるような記事が少いので、私が外国の本をはじめて買ったのもスポーツ関係のものであった。豊山中学の同級生にボクシングに凝ったのがいて、この男がアメリカのボクシングの雑誌や本をしこたま持っており、それを見せてもらっているうちに、おのずと陸上競技や野球の原書を自分で買って読むようになったのである。少年期の読書は妙に習癖になるものらしく、後年フランス語を覚えたとき、もうスポーツはやめていたけれども、フランスのスポーツの雑誌や新聞や本などが店頭にあると、つい買ってしまったものである。自転車のロードレースの本まで買った。だからスポーツに関してはサトーハチローさんの次ぐらいに物知りかも知れない。
 だから小説を読むようになったのは非常におそい。中学の同級生の中には小説を大そう読むのがたくさんいて、その一人がぜひ読めといって私に無理に読ませたのが広津和郎さんの「二人の不幸者」という本だ。これが私の小説を読んだ最初の本だ。次に芥川、次に谷崎諸氏の本を無理に読まされ、谷崎さんの「ある少年の怯れ」というのを雑誌でよんで(雑誌だったと思う)大そう感心したように覚えている。
 少年時代の私は、学校というところはスポーツを習うところで、学問の勉強なぞは自分の縄張りではないときめこんでいた。そこで授業時間は全部といっていいほど休んで、天気のよい日は海辺で、雨の日は学校の隣りのパン屋でねころんでいた。授業時間が終ると学校へ行って柔道や陸上競技を習う。柔道場には柔道の先生以外は来ないから安心だが、陸上競技の方は校庭のことでいつ諸先生とぶつかるか分らないので気がとがめたが、ランニングシャツにスパイクはいて、逃げるには完備した姿であるから心配はなかった。
 全然学校を休んでいたのだから小説なぞ読みそうなものだが、およそ読んだ記憶がない。ただボンヤリして、いくらかセンチのような気持をもてあましていた。われ泣きぬれてカニとたわむる、というような日常であったわけだが、その啄木を読んだのすら中学五年ぐらいになってからだ。
 全然ボンヤリ学校を休んでいたわけでもなく、勉強のキライなのが六人あつまってクラブをつくり、六花会と命名して小倉百人一首の練習をやった。これもちょッとしたスポーツだ。凝ってみると大そう面白くなって、夏でも冬でも季節を問わずパン屋の二階で百人一首にいりあげたものだ。「あさぼらけ」というようなのを「け」までジッと待っていて次の一語でパッとやる緊張や速度。勉強するよりは当然魅力があった。
 このバカバカしい六人で雑誌をだしたことがある。私が雑誌をだした最初のものだが、雑…

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