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雨月物語
うげつものがたり |
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作品ID | 60608 |
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副題 | 03 校注 雨月物語 03 こうちゅう うげつものがたり |
著者 | 上田 秋成 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「改訂 雨月物語 現代語訳付き」 角川文庫、KADOKAWA 2006(平成18)年7月25日 |
初出 | 「雨月物語」角川文庫、角川書店、1959(昭和34)年11月30日 |
入力者 | 砂場清隆 |
校正者 | みきた |
公開 / 更新 | 2024-06-12 / 2024-06-08 |
長さの目安 | 約 189 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
校注 雨月物語
[#改丁]
雨月物語序
一羅子撰水滸。而三世生唖児。二紫媛著源語。而一旦堕悪趣者。三蓋為業所[#挿絵]耳。然而観其文。各[#挿絵]奮奇態。四[#挿絵]哢逼真。五低昂宛転。令読者心気六洞越也。可見鑑事実于千古焉。余適有七鼓腹之閑話。衝口吐出。八雉※[#「句+隹」、U+96CA、187-5]竜戦。九自以為杜撰。則一〇摘読之者。一一固当不謂信也。一二豈可求醜脣平鼻之報哉。一三明和戊子晩春。雨霽月朦朧之夜。窓下編成。一四以[#挿絵]梓氏。題曰雨月物語。云。一五剪枝畸人書
一六 一七
[#挿絵]
[#改ページ]
羅子、水滸を撰して、三世唖児を生み、紫媛、源語を著して、一旦悪趣に堕つるは、蓋し業のために[#挿絵]らるるところのみ。然り而して其の文を観るに、各々奇態を奮ひ、[#挿絵]哢真に逼り、低昂宛転、読者の心気をして洞越たらしむるなり。事実を千古に鑑みらるべし。余適鼓腹の閑話あり、口を衝きて吐き出だす。雉※[#「句+隹」、U+96CA、188-6]き竜戦ふ、自らおもへらく杜撰なりと。則ち之を摘読する者は、固より当に信と謂はざるべきなり。豈醜脣平鼻の報を求むべけんや。明和戊子晩春、雨霽れ月朦朧の夜、窓下に編成し、以て梓氏に[#挿絵]ふ。題して雨月物語と曰ふと云ふ。剪枝畸人書す。
※[#丸印、U+329E、188-11] ※[#四角印、188-11]
一 羅貫中。中国一三、四世紀の人。水滸伝を著わしたために子孫三代唖児が生まれたという俗説がある(西湖遊覧志余。続文献通考等)「羅氏が三代まで唖子をうみしなども云ふ」(秋山記・秋成)。
二 紫式部。源氏物語を著わしたために地獄におちたという俗説がある(今物語、宝物集等)。秋成も秋山記でそのことを書いている。
三 思うに悪業の為にこんな報いにせまられたというべきであろう。
四 鳥の黙したりさえずったりする声の形容。ここでは文章の調子、勢い。
五 文章の調子が或は低く或は高く、あたかもころがるようになめらかで流暢である。
六 つよく感銘する。
七 泰平の世を謳歌するようなのんきな無駄ばなし。鼓腹は、飽食して腹鼓をうち、泰平を楽しむ。
八 雉が鳴き竜が戦うような奇怪千万な怪奇談。
九 自分でもこれは杜撰であると思う。杜撰はよりどころなく疎漏なこと。
一〇 ひろい読む。
一一 もとよりこれが信ずるに足るものだというはずがない。
一二 どうして子孫に口唇裂や平たい鼻の変わり者が生まれるという業の報いをうけるはずがあろうか。
一三 明和五年(一七六八)三月。秋成三五歳。
一四 出版業者に与えた。版行にふした。
一五 上田秋成の戯号。秋成は五歳の折、重い痘を病み、その結果、右手の中指と左手の人さし指が短くなり、不自由になった。そのことから一時的につけた号である。枝は肢と同じで、指に通ず…