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諜報部秘話
ちょうほうぶひわ
副題03 第3話 急行列車
03 だい3わ きゅうこうれっしゃ
原題THE ROMANCE OF THE SECRET SERVICE FUND, No III: In the Express
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1900年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2020-09-04 / 2020-08-25
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#挿絵]
[#改ページ]

 黄色い霧がグラスゴー地域の一部にかかった。悪臭がニュートン・ムーアの鼻孔にツーン、喉を刺激し、周りを包み、得も言われぬほど不快だ。衣服は湿気でよれよれ。
 ムーアは壁に寄りかかって面割り中。同じ姿勢で名うての諜報部員ムーアが粘ってるのは夜のとばりが降りてからずっとだ。口元の煙草は吸いつくし、マッチもなくなった。
 こうして震えながら立ちんぼうで何時間も待っている。もし見当たったら、獲物に飛びつくかもしれない。二十時間ついてない。
 今までムーアが担当した中で最大の事件だ。うまくいけば欧州一不埒な悪党を捕まえて、投獄してやる。政府関係者の中でアレックス・ミーファを恐れぬものはないばかりか、この二十年、ミーファがいなければ設計図や契約書が漏洩することもなかった。事件の黒幕だった。
 しかし、当分ムーアは、ほぼ暇つぶし状態。これは最終局面への手段であり、ちょっとした計画の一部、煙草をくゆらせながら真夜中に考えたものだ。
 さみだれに人が通る。そのとき、ひときわ軽い靴音が聞こえ、ムーアが緊張した。上背のある男が通り過ぎた。すごいハンサムで彫像のような面立ち、金の耳飾りをつけている。あきらかにイタリアの伊達男。ムーアは後をつけた。
 やがて、とある建物の階段を上がって行った。そこは部屋をいろんな人に賃貸する建物、だれでも所有でき、五パーセントを慈善団体に戻す。三階の一室へ伊達男がはいって行った。
 ムーアは猫のように獲物のあとをつけた。扉を開けっぱなしで、伊達男がランプに火をつけた。扉を閉めた直後、この伊達男は首を絞められ、椅子にどさっと押し倒され、ドス黒い恐怖に凍りついた。
[#挿絵]
「ムーアさん、ゴホッ、ゴホッ、ムーアさん」
 ムーアが手を緩めた。予想通り最高の恐怖を植え付けた。これが先刻承知の臆病者に対する扱いだ。追訴免除の証言を取るためには臆病者さえ利用する。
「ここで会うとは思ってなかったろ、ええ、ステファノ」
 ステファノが情けなく首を上下に振った。黒い瞳をぼーっとムーアに向けた。
「何も悪いことしてませんよ」
 と不機嫌だ。
「フィレンツェからお前と一緒に来たのはトスコとバーサ、それにもう一人、さらにカトリーナも絡んでるだろ。お前らの仲間を無駄に二か月つけていたんじゃねえ。グリセリン爆弾が今どこにあるか正確に知っとるぞ。何をたくらんでいるかもだ。トスコとバーサはあとで驚くぜ」
 ステファノの瞳がさらに広がった。
「この国じゃな、公共建物をぶっ飛ばして人命を危機にさらしたやつは二十年以下の懲役刑は逃れられんぞ。そうなりたいか、ステファノさんよ。それに、カトリーナはどう思うかな?」
 ステファノは震えあがった。将来が台無しだ。どうして単なるはったりだと分かる? ムーアが容疑を吹っかけると、ステファノの態度が軟化した。
「どう…

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