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日本の美
にほんのび
作品ID60627
著者中井 正一
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の美」 中公文庫、中央公論新社
2019(令和元)年11月25日
初出「NHK教養大学」1951(昭和26)年10月~12月
入力者kompass
校正者染川隆俊
公開 / 更新2023-05-18 / 2023-05-15
長さの目安約 83 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 西洋の美と東洋の美


 これからいろいろ「日本の美」について、お話をいたしますにあたって、まず、この章は、西洋の美と東洋の美の関係について、のべさせていただきます。
 いろいろの世界の学者の議論の中に、一つの間違ったと思われる考えかたがあり、また日本人もそう思っているらしい思い違いがありますので、そのことをいっとうはじめに申しあげておきます。
 それは、東洋の芸術は野蛮な民族の芸術である、という考えであります。そのことは、東洋の芸術が西洋の芸術にくらべて、発達の程度が低く、また遅かった芸術であると考える考えかたであります。
 この考えかたは戦いに負けた日本人が、何となく日本を軽蔑しているこころにまじって、日本人にとって、とんでもない悪い影響をあたえて、みながいっているアプレ・ゲールという言葉の中にある、やりきれないこころもちを引き起す危険があるのであります。
 今から十五年前、今の中国を予言した有名な著書『万里の長城はくずれる』という本を書いた、グロヴァー・クラーク氏は、その本の中で次のような意味のことをいっています。
「中国はなるほどたびたびの戦争はあったが、領土が広く、交通が貧弱であったから、大きな地区は破壊から取り残され、印刷術、陶器すなわち焼きもの、ブロンズすなわち青銅、宝玉たまの彫刻、または中国における銀行の組織、官吏登庸の試験制度など、ヨーロッパにさきんじて、はるかに発達していた」
 さらにつづけて、
「西洋は人間の便利のために用うるように、いかに自然力を支配すべきか、生活を愉快にするために事物をいかに作るべきかを多く知っている。しかし、いくら機械に役に立つ多くのものをもったからといって、またそれを知っているからといって、人間を文明人たらしめ、国を文明国たらしめることはできない。ほんとうの文明の社会とは、人が他人を抑えつけたり、人の意志や信仰を強制したりすることなく、おたがいに、正しく、敬いあい、ゆるしあうことによって、人間が共にとけあって生きる社会のことである。中国の社会は、ほんとうに、この意味の文明社会であったから、永くつづいたのである。中国人は彼らの日常生活の上に、儒教の格言であるところの『自分の欲せざるところを、人にしてはならない』ということを、一貫して、徹底して、実行している。彼らは現実主義者であるから、四民平等という到達しがたい観念的な理論は打ち立てない。長い長い実践の上に、彼らの文化、彼らの哲学、彼らの宗教があり、しかもそれを、他人に決して、強制しようとはしない」
 というのである、彼は、家族を中心とする、また村落を中心とする、または職業を中心とするギルド、すなわち協同体は、世界に比類のないかたちで発展をとげていることを指すのであります。そして結論として、
「事物を支配する技術については、西洋は中国よりもはるかに多くを知ってい…

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