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渡鳥いつかへる
わたりどりいつかへる
作品ID60642
副題軽演劇一幕四場
けいえんげきいちまくよんば
著者永井 荷風
文字遣い新字新仮名
底本 「問はずがたり・吾妻橋 他十六篇」 岩波文庫、岩波書店
2019(令和元)年8月20日
初出「オール読物 第五巻第六号」文藝春秋新社、1950(昭和25)年6月1日
入力者入江幹夫
校正者noriko saito
公開 / 更新2022-04-30 / 2022-03-27
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

街娼鈴代 (年十九)
アパートのお神さん (年三十)
艶歌師福井 (年廿五、六)
艶歌師松田 (年三十)
ヤクザ斎藤 (年廿五、六)
医師武田先生 (年五十四、五)
おでんや (年五十四)
私服刑事一人
電車従業員二人
酔漢一人
女巡査二人


第一場

向島都電終点附近のさびしき横町。十一月頃の夜十一時過。新内流にて幕あくと女巡査二人下手より出で上手に入る。遊び人斎藤(年廿五、六。顔に疵あり。色白の美男。洋服。)下手より出るトすぐその後より私服の刑事一人出で、
刑事 オイ一寸待て。
ト呼止める。斎藤聞えぬ振にて上手へ行きかける。
刑事 オイ待て。貴様、斎藤だろう。
ト後から組みつく。斎藤振りほどき刑事の急処をつき上手へ駈入る。刑事起直り、
刑事 この野郎。待て。
トよろめきながら追掛けて上手に入る。
舞台暗転。

第二場

都電南千住涙橋附近の横町。十一月頃の夜十一時過。柳の立木。後一面の黒幕。下手寄りに年五十がらみのおでんや屋台を出している。電車従業員らしき制服制帽の男二人屋台の前に立ち、
男の一 オイ会計だ。みんなでいくらだ。いいよ。君。今夜は僕が出しとくから。いいと言うのに。
おでんや 三百七拾円になります。
男の二 イヤ君に出さしちゃ済まない。三百七拾円だな。ああ君。僕に払わしてくれ。(ト百円札を出す。)
おでんや ヘエ参拾円のおつり。毎度ありがとう御ざい。
ト二人の客なお暫く争いながら上手に入る。街娼鈴代。年二十位。洋装外套。ハンドバッグを提げ上手より出るとその後より汚れた作業服の職工酔いながら、
職工 姐さん。ちょいとねえさん。
ト呼びかける。鈴代一寸振返り知らぬ顔にて下手へ行きかける。
職工 一人歩きは危険だぜ。送ってッてやろう。
鈴代 いいえ。いいんですよ。家はすぐそこですから。
職工 遠慮するな。一しょに行こう。(ト手を取ろうとする。)
鈴代 何するんだよ。この人ア。
ト突き飛す。職工よろけて倒れる。鈴代おでん屋の灯を見てかけ寄り、
鈴代 おじさんおじさん。
職工 よくも人を突飛ばしたな。承知しねえぞ。
おでんや 店の邪魔だ。止しなさい。
職工 この野郎。承知しねえぞ。
ト立ちかかって見たがおでん屋の姿に、
職工 この野郎。この野郎。
ト呼びながら下手へ入る。
おでんや 馬鹿野郎。おとといお出でだ。
鈴代 おじさん。すみません。何かおいしそうな物。取って下さいな。
おでんや アイヨ。今夜アいつもより早かないか。
鈴代 早いかも知れないわ。宵の口に狩込があったらしいんだよ。こんな晩はどうせろくな事アありゃしないからね。好加減にして切上げてしまったのさ。
おでんや 今夜はこの辺も馬鹿に静だよ。景気のわるい晩はどこも同じだと見えるな。
鈴代 お天気も毎日毎日はっきりしないわね。
おでんや 一日いいかと思うとすぐまた降りだからね。今夜アおいらもそ…

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