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〔「銀河鉄道の夜」初期形一〕
〔「ぎんがてつどうのよる」しょきがたいち〕
作品ID60681
著者宮沢 賢治
文字遣い新字旧仮名
底本 「【新】校本宮澤賢治全集 第十巻 童話Ⅲ 本文篇」 筑摩書房
1995(平成7)年9月25日
入力者砂場清隆
校正者officeshema
公開 / 更新2021-08-27 / 2022-05-12
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔ここまで原稿なし〕
 そして青い橄※[#「木+覧」、16-3]の森が見えない天の川の向ふにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまひそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう汽車のひゞきや風の音にすり耗らされて聞えないやうになりました。
「あの森琴の宿でせう。あたしきっとあの森の中に立派なお姫さまが立って竪琴を鳴らしてゐらっしゃると思ふわ、お附きの腰元や何かが青い孔雀の羽でうしろからあをいであげてゐるわ。」
 カムパネルラのとなりに居た女の子が云ひました。
 それが不思議に誰にもそんな気持ちがするのでした。第一その小さく小さくなっていまはもう一つの緑いろの貝ぼたんのやうに見える森の上にさっさっと青じろく時々光ってゐるのはきっとその孔雀のはねの反射だらうかと思ひました。けれどもカムパネルラがやはりそっちをうっとり見てゐるの〔に〕気がつきましたらジョバンニは何とも云へずかなしい気がして思はず「カムパネルラ、こゝからはねおりて遊んで行かうよ。」と云はうとしたくらゐでした。ところがそのときジョバンニは川の遠くの方に不思議なものを見ました。それはたしかになにか黒いつるつるした細長いものであの見えない天の川の水の上に飛び出してちょっと弓のやうなかたちに進んでまた水の中にかくれたやうでした。おかしいと思ってまたよく気を付けてゐましたらこんどはずっと近くでまたそんなことがあったらしいのでした。そのうちもうあっちでもこっちでもその黒いつるつるした変なものが水から飛び出して円く飛んでまた頭から水へくぐるのがたくさん見えて来ました。みんな魚のやうに川上へのぼるらしいのでした。「まあ、何でせう。タアちぁん。ごらんなさい。まあ沢山だわね。何でせうあれ。」睡さうに眼をこすってゐた男の子はびっくりしたやうに立ちあがりました。「何だらう。」青年も立ちあがりました。「まあ、おかしな魚だわ、何でせうあれ。」
「海豚です。」カムパネルラがそっちを見ながら答へました。「海豚だなんてあたしはじめてだわ。けどこゝ海ぢゃないんでせう。」「いるかは海に居るときまってゐない。」あの不思議な低い声がまたどこからかしました。ほんたうにそのいるかのかたちの〔〕おかしいこと二つのひれを丁度両手をさげて不動の姿勢をとったやうな風にして水の中から飛び出して来てうやうや〔しく〕頭を下にして不動の姿勢のまゝまた水の中へくぐって行くのでした。見えない天の川の水もそのときはゆらゆらと青い焔の〔や〕うに波をあげるのでした。「いるかお魚でせうか。」女の子がカムパネルラにはなしかけました。男の子はぐったりつかれたやうに席にもたれて睡ってゐました。「いるか魚ぢゃありません。くぢらと同じやうなけだものです。」カムパネルラが答へました。「あなたくぢら見たことあって。」「僕あります。くぢら、頭と黒いしっぽだけ見えます。潮を吹くと丁…

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