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諜報部秘話
ちょうほうぶひわ
副題05 第5話 盤上の手合い
05 だいごわ ばんじょうのてあい
原題THE ROMANCE OF THE SECRET SERVICE FUND, No V: The Other Side of the Chess-Board
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1900年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2020-11-03 / 2020-10-25
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#挿絵]
[#改ページ]



 ニュートン・ムーアが緊張して指でまさぐった一片の艶紙は自分のパスポート、拝謁するのはほかでもない首相本人である。
 仏頂面の名誉次官がムーアに用件を尋ねるさまは、これ以上の慇懃無礼ができるかというほどだ。
 諜報部員のムーアが名刺を渡して待った。名刺はウェスタハウス卿のもの、鉛筆で「持参人面会許可」と書かれている。
 仏頂面が高慢ちきに笑った。すぐにムーアは首相の個室に通された。
「閣下、お呼びでございますか」
 とムーアがおずおず尋ねた。
 ああ、と首相のウェスタハウス卿が額に手を当て、何か重要なことを思い出したかのように、
「ムーア君、呼んだよ。チャールズ・モーリィ卿が君の素晴らしい業績を教えてくれた。一つ引き受けてほしいのだが、大きな負担がかかるかもしれない。任務に全く危険がないとはいえない。必要なのは機転と工夫だ」
 ムーアはお辞儀して、信頼に感謝した。
「アストリア大使のワルマ卿を少しは知ってるか」
 と首相が尋ねた。
「聞いたことがあります。ワルマ卿の人となりは知能が高く、物知りの大家、バイオリンの名手と聞いています。何編か詩も読んだことがあります」
「高く評価しているのだな」
「部外者としてはそうですね、閣下。ワルマ卿は今まで素晴らしい方ですし、またちょっと気まぐれです。噂では家系に精神異常の気質があるとか」
 首相の顔に重苦しい表情が浮かんだ。
「それを恐れている。ワルマ卿は任務をよく果たしてくれる。依然として高く評価している。しかし最近のことだが、ワルマ卿が裏切ったと結論せざるを得ない。つまり自国の為にならないという意味だ」
 ムーアがちっと舌打ちした。首相である第一大蔵卿の前だろうが、ムーアは不敬をためらうことがなかった。
「閣下、時間の浪費のように思われます」
 とムーアが言った。
 幾分冷静にウェスタハウス卿が求めたのは、もっといい返事だった。
 ムーアがことを重大に受けとめ始めた。明らかにワルマ卿には自国の秘密を漏らした疑いがかかっている。
 このような驚くべき事案はこと大使に関し、前代未聞だろう。ウェスタハウス卿が事実を打ち明けなければ、話をしても意味が無い。
「君は向う見ずだよな」
 と首相のウェスタハウス卿が嫌みに言った。
「閣下、そうかもしれませんが、バカじゃないですよ」
 ウェスタハウス卿は下敷きに骸骨を三個、乱暴に描いてから返事した。
「その通りだ、悪かった。要するにこういうことだ。ここしばらく我が国は欧州外交で大失態を演じ続けておる。だからこそおかしい。というのも今まで信頼していたワルマ卿が鮮やかに成功を収めてきたからだ。いつも如才なさと技量を発揮した。外交文書は独創性、方向性において申し分なかった。しかるに、新方針の裁可を求めるにあたり、その動きが敵方に確実に予測されておる。当該…

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