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諜報部秘話
ちょうほうぶひわ
作品ID60743
副題06 第6話 三人組
06 だいろくわ さんにんぐみ
原題THE ROMANCE OF THE SECRET SERVICE FUND, No VI: Three Of Them
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1900年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2020-12-02 / 2020-11-26
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#挿絵]
[#改ページ]



 有名な諜報員ニュートン・ムーアがうきうき気分で早々と朝食に降りてきた。今日の休日計画は決して悪くない。さらに今回の朝食だけはハラハラせず食べられる。
 ふと頭の中で思い描いた光景は、クロベリへ通じるホビイ・ドライブ道やら、柔らかいピリッとくる海老やら、ニュー・イン宿の壁にかかる食器の青光りやら……。
 任務上、毎日ざっと目を通すのが、警視庁から送ってくる殴り書きの書類だ。紙に書かれた名前は各国の悪漢、任務次第で使える。ロンドンに潜伏する異国のならず者をあれこれ知っていれば、捜査上おおいに役立つことがよくある。
 ほとんど無意識に数名を暗記した。誰も使う予定はないけど、癖だった。それから新聞を広げて読み始めた。思わずうなった。味見もしてない朝食をどけて、つぶやいた。
「休暇どころじゃない、これは絶対警察案件じゃないなあ。今にも呼びつけられるぞ」
 ムーアの生活を一変させる記事が大見出しで踊っていた。

「外務省で変事」
「ゴードン・メイン次官殺害か」
昨夜遅く、我社の情報によれば、外務省のゴードン・メイン事務次官が執務室で残酷に殺害されているのが発見された由。状況から、不運に見舞われた次官は夕食後、重要書類を緊急処理するために執務室に籠ったものと思われるが、通常そんな遅い時間帯は無人である。夜十時、メイン氏は友人のコンスタンス大佐によって発見された。同氏が指定時間に迎えに行くことになっていた。死体は床に横たわり、心臓近くの傷口から出血していた。争った跡が見られ、死亡した次官は必死に抵抗したことが明白である。犯罪動機はまだ分かってない。我社の記者がコンスタンス大佐に聞いたところ、取材拒否にあったからである。

 ムーアはテーブルを片づけて、警視庁提供の名簿を熱心に調べ始めた。直感どころか、事件に巻き込まれようとしていた。
 だから、元刑事部秘書がコンスタンス大佐の訪問をうやうやしく告げても、ちっとも驚かなかった。
「ペインタ君、すぐ通してくれ、あの休暇の私服は着られない。当分クロベリには行けない。運が悪い」
 ペインタ秘書がお辞儀して下がった。少々のことには慣れっこだった。
 コンスタンス大佐が青白い顔で、興奮してやってきた。
「ここへ真っ直ぐ参りましたのは、外務大臣と打ち合わせた結果、この凶悪事件をあなたにゆだねるべきと判断されたからです。大臣は時間が省けるとのお考えです」
[#挿絵]
「さすが大臣。本件は私の畑ですか」
「その通りです。昨夜メイン次官が執務室へ戻った理由は英独協定書の素案をスコットランドに居る首相に送らねばならなかったからです。この協定書は一見商業的なものですが、欧州の将来に重要な意味があります。言うまでもないですが、ロシアやフランスは素案を知るためなら金を惜しみません。いま電信が首相から来ましたが、メイ…

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