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肱鉄砲
ひじでっぽう
作品ID60776
著者管野 須賀子
文字遣い新字旧仮名
底本 「[新編]日本女性文学全集 第二巻」 菁柿堂
2008(平成20)年9月21日
初出「牟婁新報 第五八〇号」1906(明治39)年4月15日
入力者かな とよみ
校正者持田和踏
公開 / 更新2022-06-07 / 2022-05-27
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

必要の一物

 曰く婦人問題、曰く女学生問題、と近年遽かに女の問題は、所謂識者の口に筆に難解の謎の如く、是非論評せらるゝに至れるが、而も其多くは身勝手なる男子が稍覚醒せんとしつゝある、我等婦人の気運を見て、驚きの余り我田引水の愚論を喋々せるものにして、耳を傾くるの価値あるものは、殆んど皆無と言ひても差支なき程なり。
 そは兎もあれ、妾は今、言稍極端なるに似たれ共、今日の婦人に尤も必要なる、一物を望まんとす。
 何ぞや、堅固なる肱鉄砲是なり。

何故ぞや

 何故、肱鉄砲を要するや。
 之を説く前に、先づ婦人諸君に借問したきは、諸君果して其身の境遇に絶対の安心を得て、満足し居らるゝや否やの一事なり。
 妾の見る処を以てすれば、多年の習慣上、表面だけは余儀なく平和を粧ひ安心らしく見せかけ居るも、極く少数を除く外の婦人は、総て悉く衷心に何等かの煩悶を横たへ、不安の思ひに戦々兢々たる事実を発見するなり。何故ぞや。

男子の貞操

 男子に貞操なければなり。
 凡そ世に厄介なるものも少なからねど、妾は男子程厄介なる者は無しと思ふ。妾は男子の(暁天の星なる真の純潔なる士は例外)口より婦人貞操論を聞く度に、常にチヤンチヤラ可笑しくて噴飯し居るなり。然して耳を傾くる前に、先づお手許拝見と叫ばざるを得ざるなり。社会の滔々たる男子が、臆面も無く婦人貞操論を口にするイケ図々しさに至つては、只唯、呆れ入らざるを得ざるなり。
 是れ畢竟、婦人を奴隷視し、侮辱するの甚だしきものなればなり。
 妾は、我が婦人諸君が起つて、何故男子貞操論を絶叫せざるかを、頗る奇怪とする者なり。

悲しい哉

 故に妾は、今日の汚れたる男子の口より吐き出さるゝ、所謂賢妻良母なる語を、蛇蝎の如く嫌忌し、常に冷笑を以て迎へつゝあるなり。腐敗堕落せる彼等男子に、何すれぞ貞操を強ゆるの権利ありや。彼等が婦人に対して貞操を強ひ、賢妻良母を説く前に、何ぞ男子自ら貞操を全ふして、賢父良夫たらざるや。世に矛盾多しと雖も、恐らく斯くの如き大矛盾はなかる可し。
 されど悲しい哉、現今の社会制度に於ては、此大矛盾、大侮辱をも尚且つ忍んで、総ての婦人が男子の奴隷とならざるを得ざるは何故ぞや。是れ畢竟、生活の不安ちふ根本の一大問題のあればなり。

奮起せよ

 此根本問題の解決は、勿論社会主義に俟たざる可らずと雖も、而も我等婦人は尚夫以外に、此我儘勝手なる男子閥とも戦はざる可からざるなり。
 奮起せよ婦人、覚醒せよ婦人。
 労働者の資本家に対する階級打破の夫に比して、我等婦人が男子閥に対する平等自由の要求は、只己が意志一つにて、声を揚げず、血を流さず、至つて容易に得らるゝに非ずや。
 暴横なる男子を排斥せよ、貞操なき男子を排斥せよ、堕落せる男子を排斥せよ、然して彼等に反省を与へよ。
 卿等は百万噸の甲鉄艦にも増し、百吋の砲弾にも優る…

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