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クリスマスと結婚式
クリスマスとけっこんしき
作品ID60812
副題――無名氏の手記より――
――むめいしのしゅきより――
原題ЕЛКА И СВАДЬБА
著者ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ
翻訳者米川 正夫
文字遣い新字新仮名
底本 「ドストエーフスキイ全集 2」 河出書房新社
1970(昭和45)年8月25日
入力者いとうおちゃ
校正者三輪朋加
公開 / 更新2022-12-24 / 2022-11-26
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 二、三日前にわたしは結婚式を見た……いや! しかし、それよりまず降誕祭樹まつりの話をしよう。結婚式は立派なもので、大層気に入ったのだけれど、もう一つの話のほうが面白いのだ。いったいどうしたわけで、その結婚式を見ているうちにあの時の降誕祭樹まつりのことが頭に浮かんだのか、わたしにもよくわからない。が、これは次のような次第だったのである。
 ちょうど五年前、元旦を迎えようという大晦日の晩、わたしは子供の舞踏会へ呼ばれた。その呼んでくれた人はさる知名の実業家で、方々にいい手蔓も持っていれば、顔も広く、策謀も上手といった人物なので、この子供のための舞踏会というものも、要するに親たちが一つに寄り集まって、偶然罪のない話が始まったという体裁で、自分たちに興味のあることどもをしゃべり合うための口実であった、とも考えられるのである。わたしは方面ちがいの人間なので、そうしたふうの面白い話題といっては、皆目なかったから、かなり超然とした態度で一晩を過ごしてしまった。
 そこにはもう一人、格別これという身寄りも縁辺もなく、わたしと同様、ほんの偶然でこの家庭的な団欒の席に来合わしたらしい紳士がいた……この人がだれよりも真っ先にわたしの目についたものである。背の高い痩せぎすの男で、すこぶる真面目な顔つきをし、服装などもなかなかきちんとしていた。しかし、見受けたところ、彼は家庭団欒だの、喜びだの、楽しみだのといっているどころの騒ぎではないらしかった。どこかちょっと片隅へでも引っ込むと、さっそく笑顔を片づけてしまい、真っ黒な濃い眉をひそめるのであった。この家の主人を除けると、舞踏会の席上だれ一人として知合がないのだ。当人退屈で退屈でやり切れないのだけれど、男男しくもそれを押し隠して、最後までいかにも面白くてたまらぬといったような、幸福者の役割をしおおせようとしているのが、ありありと見透かされる。後で聞いたところによると、この紳士は首都に何か面倒な事件が持ちあがったので、この家の主人に宛てた紹介状を持って、田舎からわざわざ出て来たのだが、主人のほうでは、いっこう con amore(衷心から)一肌ぬいでやろうという気がなく、ほんのお愛想に子供の舞踏会へ招待したまでなのである。カルタはやっていなかったし、それにおそらく遠目に服装で相場を踏んだのであろう、だれもかれに葉巻をすすめるものもなければ、話をしかけようというものもなかった。そこで、この紳士は手のやり場がないままに、ひと晩じゅう頬ひげを撫でていなければならなかった。なるほど、その頬ひげはなかなか見事なものであった。けれども、あまりそいつを精出して撫でつづけているので、その様子を眺めていると、まず頬ひげのほうがさきにこの世に生まれて、それからそいつを撫でるために、この紳士が添え物としておかれたのではないかと、こんなことを考えずにはいられ…

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