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スザナの物語
スザナのものがたり |
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作品ID | 60855 |
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副題 | ――経典外聖書―― ――けいてんがいせいしょ―― |
原題 | THE HISTORY OF SUSANNA |
著者 | 作者不詳 Ⓦ |
翻訳者 | 村崎 敏郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「〔名探偵登場Ⅰ〕」 HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS、早川書房 1956(昭和31)年2月28日 |
入力者 | sogo |
校正者 | かな とよみ |
公開 / 更新 | 2022-01-06 / 2021-12-27 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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バビロンにヨアキムという人が住んでいた。そしてこの人はスザナという妻をもらつたが、これはケルキアスの娘で、たいへん美人であり、神を恐れる婦人であつた。この女の両親も正しい人で、モーゼの律法に従つて娘を教育した。
さてヨアキムは金持でえらい人だつたが、家に接する美しい庭園を持つていた。そしてこの人は他のだれよりも尊敬されていたので、ユダヤ人たちがしげしげと出入りした。
その年に人々の中から二人の長老が裁き人に任じられたが、これは主が告げたもうたように、邪悪はバビロンの老いたる裁き人からくるというたぐいの人で、人々を支配しているようであつた。この二人はたいていヨアキムの家にいて、法律の訴えをする者はみなここへ来た。
さて人々が正午に立ち去つてしまうと、スザナは家の庭園へ散歩に行つた。そして二人の長老は毎日彼女が散歩に入つてくる姿を見て情欲を燃え立たせていた。そして邪心を起こしたので、眼をそむけて、天を仰ぎ見ないようにし、正しい裁きを思い出さないようにした。そして二人とも彼女への恋に傷ついていたけれど、それでも相手に自分の悲しみを見せようとはしなかつた。というのは彼女を自分の物にしたいという欲情を公言するのを恥じていたからである。それでも彼らは毎日怠らずに彼女を見ようと注意していた。
そして一人が相手に言つた。「さあ中食の時間だから、帰ろうじやないか」
そこで二人は外に出て、別々にわかれたが、また引き返して、同じ場所で出合つてしまつた。そして、おたがいにどうしたわけかときいてから、二人は自分たちの欲情を認めた。そこで女が一人でいる機会が見つかつたら一緒に行動しようと約束した。
そして二人が折あらばとねらつているとき、彼女はいつものとおり二人の女中だけを連れて入つて行つて、暑いので庭で体を洗いたくなつた。そして姿をかくして彼女を見張つていた二人の長老以外には、そこにはだれもいなかつた。
そこで彼女は女中たちに言つた。「わたしに油とあかすりを持つてきておくれ。そして体を洗うから、庭の戸をみんな閉めておくれ」そして女中は言われたとおりにして、庭の戸を閉め、自分たちは隠し戸から出て、言いつけられた品物を取りに行つた。だが女中たちは隠れていた長老の姿には気がつかなかつた。
さて、女中が行つてしまうと、二人の長老は立ち上つて、彼女のそばへ駆けよつて、言つた。「見よ、庭の戸は閉じられて、だれも見る者はない。そしてわれわれはおまえを恋している。それゆえにおとなしくわれわれの言うことをきいて、一緒に寝るのだ。もしおまえがいやだといえば、われわれは、若い男がおまえと一緒にいたので、そのためにおまえは女中たちを遠ざけたのだと言つて、おまえをおとしいれる証言をするぞ」
その時スザナは嘆息して、言つた。「わたくしは八方ふさがりです。だつて、もしわたくしがおつしやるとおり…