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ベルとドラゴン
ベルとドラゴン
作品ID60856
副題――経典外聖書――
――けいてんがいせいしょ――
原題BEL AND THE DRAGON
著者作者不詳
翻訳者村崎 敏郎
文字遣い新字新仮名
底本 「〔名探偵登場Ⅰ〕」 HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS、早川書房
1956(昭和31)年2月28日
入力者sogo
校正者かな とよみ
公開 / 更新2022-03-19 / 2022-02-25
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 バビロン人たちは、ベルと名付けた偶像を持つていて、毎日それに大升十二杯の上等の粉と、四十頭の羊と、六杯のブドウ酒を捧げた。そして王はそれを信仰して、毎日礼拝に行つた……だがダニエルは自分の神を信仰していた。
 そして王がダニエルに言つた――「なぜおまえはベルをうやまわないのか?」
 その人は答えて言つた――「それはわたくしが人の手で作つた偶像をうやまわないで、天と地を作り、生きとし生ける者を支配したまう生ける神をうやまうからでございます」
 それから王は彼に言つた――「おまえはベルが生ける神だとは思わないのか? 毎日どんなにたくさん飲み食いなさるか知らないのか?」
 その時ダニエルは微笑して、言つた――「ああ、王様、あざむかれないようになさいませ。というのはあれは中はただの土くれで、外は真鍮でございますから、何一つ飲みも食いもいたしません」
 そこで王は激怒して、僧侶を呼び集めて、一同に言つた――「もしおまえたちが、これほど費用のかかる品々を食いつくしているのがだれであるかを、わしに知らせなければ、おまえたちを殺すぞ。だが、もしベルがそれを食いつくしていることを証明できれば、その時はダニエルを殺そう。あの男はベルを汚すような不敬を口にしたからじや」
 そしてダニエルは王に言つた。「お言葉のとおりにいたしましよう」
 さてベルに仕える僧は妻子を除いて六十と十人あつた。そして王はダニエルと共にベルの神殿へ入つて行つた。
 そこでベルの僧たちは言つた。「さらば、わたくしどもは外へ出ます。ですがあなた様は、ああ王様、食物を供え、ブドウ酒を用意して、扉をしつかり閉めた上、ご自身の印形で封をなさいませ。そして明日あなた様がお入りあそばしたとき、もしベルがすつかり食いつくしていないようでしたら、わたくしどもは死を覚悟いたしましよう……さもなかつたらわたくしどもをおとし入れるようなうそをついたダニエルが死ぬのです」
 そして彼らはそれをあまり気にしていなかつた……というのはテーブルの下に秘密の入口が作つてあつて、そこから絶えず入りこんで、供物を食いつくしていたからであつた。
 そこで僧が行つてしまうと、王はベルの前に食物を捧げた。さてダニエルは召使たちに灰を持つてこいと言いつけておいたので、召使たちは王ひとりだけのお目の前でその灰を神殿中にまき散らした。それから一同は外へ出て、扉を閉め、王の印形で封をしてから、立ち去つた。
 さて夜になると僧たちは(いつもやりつけていたとおり)妻子を連れてやつて来て、すつかり食べたり飲んだりしてしまつた。
 朝になると王は早くお目覚めになつたので、ダニエルはお供をした。そして王は言つた――「ダニエル、封印は元の通りになつているか?」
 そしてダニエルは言つた――「さようでございます、ああ王様、元の通りでございます」
 そしてダニエルが扉を…

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