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真劇シリーズ
しんげきシリーズ
作品ID60867
副題04 第4話 盗作者
04 だいよんわ とうさくしゃ
原題REAL DRAMAS, No. 4: The Plagiarist
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1909年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2021-04-04 / 2021-04-10
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]

 今は亡き俳優手配師の備忘録より

[#改ページ]

 ウィルビイ・ハーコートがとうとうと語る銀鈴のような声は、得も言われぬほど魅力的だ。特にご婦人方がいるところでは……。容姿が絵のようにすばらしいのも、経歴同様。
 演劇に多少なりとも関心を持つものなら皆、ハーコートの素姓を知っている。父は全盛時評判の俳優だったが、異国で熱烈な恋愛事件を起こし、決闘で殺されてしまった。
 母は美人で強情なマートレーバーズ。家族の強い反対を押し切って、父と結婚したが、わずか二年後に未亡人になってしまった。
 こうしてウィルビイ・ハーコートは十五歳で世の中に放り出され、自立した。ドサ回り劇団を経て、こんにち最高の二枚目俳優としての地位を得た。外から見る限り、充分成功している。自分の劇場を持ち、多少なりとも自作演劇に関わっている。
 しかし、内輪の口さがない連中は、ハーコートは会社の雇われ人で、売上の何割かを給料にもらっているに過ぎないという。そしてこれら楽屋スズメによれば、最近は利益がほとんどないとか。もっと思いやりのない連中は、ハーコートはいっぱしの悪党だという。
 そんな風聞も、ものかは、どこでも人気者だ。彫りの深い整った男性的な顔立ちと銀髪で、すいすい世渡りする。晩餐会の招待を受けたら大手柄とされ、マニントン夫人はその辺をよくわきまえていた。

 日曜の夕べ、テーブルを囲むのは総勢わずか六人。楕円テーブルには桃色のランがでんと置かれ、桃色傘付き照明が複数あった。晩餐会は優雅に進行し、マニントン夫人はご満悦だ。
 コーヒーと煙草の時間になった。令夫人は同じテーブルで過ごしたかったし、偶然ウィルビイ・ハーコート氏もそうだった。くつろいで話がしたい。よく配置された紅白ワインやら、山盛りの果物も気に入った。得意の話術の時間となった。
 例によって会話は如才なかった。いつもより力が入っていた。というのも前夜マンチェスターで初演した新しい劇のことを話したからだ。
 今日は日曜日だから、朝刊は簡単な内容のみ。参加者たちは食い入るように聞き入った。なかでもドロシー・ネーションほど熱心な女性はいなかった。
 実を言えば、ドロシーに参加資格はない。マニントン夫人の秘書として参列しただけだ。仕事は夫人の手紙や招待状を代筆し、ピアノを伴奏すること。令夫人は人並み以上の歌劇作曲家だった。
 晩餐会を土壇場で誰かがキャンセルした為、令夫人が空席を嫌った。なかば自然に、半ば強引に、秘書に出席を命じた。

「本当に素晴らしい劇だよ、私が言っちゃまずいけど。でも昨夜のマンチェスター市民の感想だ」
 とハーコート氏がつぶやいた。
 誰かが尋ねた。
「作家は誰ですの? ユージン・マレは偽名ですの?」
 ほかの誰かがカマをかけた。
「つまりウィルビイ・ハーコートさんの筆名ですか」
 ハ…

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