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木のウィリアム
きのウィリアム
作品ID60877
原題WILLIAM OF THE TREE
著者ハイド ダグラス
翻訳者館野 浩美
文字遣い新字新仮名
入力者館野浩美
校正者
公開 / 更新2021-12-29 / 2021-11-27
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 むかしむかしのことだった、エリン(*1)の国に王さまがいた。王さまにはうつくしいお妃がいたが、子どもはたったひとり、娘がいるだけだった。お妃は病気になり、もう長くは生きられないとわかった。お妃は、じぶんのお墓のうえに足ひとつ分の高さまで草がのびないうちは、ほかのひとと結婚してはいけないというギャサ(魔法の命令)を王さまにかけた。娘は利口者だったので、まい晩はさみを持って出て行っては、草を根本まで刈ってしまった。
 王さまは、ぜひともべつのお妃を迎えたいと思っていたが、どうしてお妃のお墓に草が生えないのか、わからなかった。「だれかがわしをだましているな」王さまはぶつぶつ言った。
 ある晩、王さまが墓場に行ってみると、娘がお墓に生えた草を刈っていた。王さまはたいそう腹をたてた。「どんなに年よりだろうと、若かろうと、はじめに見た女とわしは結婚するぞ」王さまが道に出ると鬼婆がいた。誓いを破るのはいやだったので、王さまは鬼婆を連れ帰ってお妃にした。
 鬼婆がお妃となってからというもの、娘はたいへんつらい目にあわされたあげく、王さまに言いつけてはいけない、どんなことが起こったのを見ても、洗礼をうけたことのない三人の者をのぞいては、だれにも言ってはならないと約束させられた。
 つぎの日の朝、王さまは狩りに出かけ、その留守中に、鬼婆は王さまのとびきりの猟犬を殺してしまった。帰ってきた王さまは鬼婆にたずねた。「わしの犬を殺したのはだれだ」
「殺したのはあなたの娘です」
「なぜわしの犬を殺したのだ」
「わたしは殺していません。でも、だれがやったのかは言えません」
「言わせてやろう」
 王さまは深い森に娘を連れてゆき、木に吊るして両手と両足を切りおとし、そのまま死んでしまうよう置き去りにした。王さまが森を出ようとしたとき、足にとげがささり、そこへ娘が言った。「わたしに手と足が生えて王さまを治すまで、けっしてよくなることがないように」
 王さまが戻ると、足から木が生えてきて、窓を開けて先を出しておかなければならなくなった。
 ある身分の高い男の人が森のそばをとおりかかって、王さまの娘が悲鳴をあげているのを耳にした。木のところへ行って娘のありさまを見ると、かわいそうに思って家に連れて帰り、娘のぐあいがよくなると、奥さんにした。
 一年の三分の二が過ぎて、王さまの娘はいちどに三人の男の子を産み、そこへグラーニャ・オーイ(*2)がたずねてきて、娘に手と足を生やし、こう言った。「子どもたちが歩けるようになるまで、洗礼をうけさせてはいけませんよ。おまえのお父さんの足には木が生えて、いくら切り落としてもまた生えてくるが、これを治せるのがおまえです。おまえは、洗礼をうけていない三人の者いがいには、継母がしたことを話してはならないという約束があるから、神さまがこの三人をさずけてくださったのです。…

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