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真劇シリーズ
しんげきシリーズ
作品ID60945
副題05 第5話 所有者
05 だいごわ しょゆうしゃ
原題REAL DRAMAS, No. 5: The Man in Possession
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1909年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2021-05-01 / 2021-04-26
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]

 今は亡き俳優手配師の備忘録より

[#改ページ]

 この種の出来事がすごく面白いのは、演劇新聞のクリスマス小話に載った場合だが、当事者にとっては、ちょっぴり悲哀が漂う。
 役者ほど気楽で陽気な稼業はないとはいえ、実際は楽しみどころか、浮草人生の、いわば文無しだし、見知らぬ町なら借金もできないし、どっちみち胡散臭い目で見られる。
 度胸を据えて、月初の週末、貧乏女家主に交渉すれば、貸し家や半端物も提供できないというだろう。女性ならもっと難しい。
 何も目新しいことじゃない。かつて何百回と起こったことだし、これからもあるだろう。

 クラレンス・クロショイ氏は西部劇場に出演する派手な看板俳優でありながら、土曜日の夜、一週間分の売上を持ってトンズラし、帰ってくる気配がなかった。
 同氏の豪華な毛皮コートや、素敵な白脚絆や、きらめくアラスカ産ダイア飾りボタンですら、インディアン少女劇団の心証には、ちっとも羨ましくない。つまり、ドサ回り中に同氏の詐欺にひっかかってしまい、団員のほとんどが無一文になってしまった。
 もう今となっては、レイモンド・デューク団長がこのいきさつをヒル通りで客らに話しても何ら、かまわない。もちろんロンドンの劇場から帰宅したあとでだ。

 しかし、当時のデューク団長は今と大いに異なり、マルボロ市ハイ通り新聞店の二階に間借りし、みすぼらしい小部屋で愛妻に事件を打ち明けていた。
「あの男は悪党だよ」
 と女房のネッタ・デュークが言い放った。
 亭主のデューク団長が嘆いて、
「みんな知っとった。始めからだ。稽古を始める前からだ。でも一〇週間も客が入らないから何でも、危険でもやった。そしたら持ち逃げだよ、ネッタ。俺の有り金は九ペンス(約三百円)、お前は一シリング二ペンス(約五百円)。ミーキンズ夫人の家賃は週二十五シリング(約一万円)だ。何て言い訳しよう」
 小心な正直者にとって、自分が悪くないと説明するのは容易なことじゃない。だってしょっちゅう反対のことが起きているもの。
 家主のミーキンズ夫人も困った。以前にもこんなので参ったという。役者は来週金曜日に小切手を渡すと誓いながらトンずらよ、そしてよきサマリア人さながら、二度と顔を拝めないなどと、ほうほうの体だ。
 女家主はちょっと気が緩んだか、涙を流し、その後うまい夕食を造り、ちょうど田舎の姉からいい贈り物が届いたわ、などと腹にもないことを言った。とても滑稽で、人間くさく、みえみえだった。

 インディアン少女劇団は次の日、打ち合わせた。何かやらねばならなかった。そして一週間まるまる演じて、かなり稼いだ。
 マルボロは活気のある小都市で、商売が盛んだ。もしクロショイが三時の競馬でぼろ負けしなければ、ずっと順風満帆だったかもしれない。だが、もう終わったことだ。何かやらねば。
 …

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