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真劇シリーズ
しんげきシリーズ
作品ID60946
副題06 第6話 手錠
06 だいろくわ てじょう
原題REAL DRAMAS, No. 6: A Pair of Handcuffs
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1909年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2021-06-01 / 2021-05-27
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]

 今は亡き俳優手配師の備忘録より

[#改ページ]

 サットン・バスコム歌劇団ほどの一流歌劇団が出直すことになった。今まで経営は順調だったのに……。当歌劇団が株式会社であることなど大衆は知らない。次第に経費が重くのしかかり、対策を講じなければならなくなった。
 その結果、合唱隊の半分以上が解雇され、オーケストラの三分の二がメルボルンやシドニーと契約し、残りの団員で豪州奥地の公演が始まった。
 急造劇団だったが、奥地の鉱夫や羊毛刈り人はちっとも気にしなかった。粋な歌劇を堪能し、惜しげなく金を払った。
 鉱山村の取引は砂金だ。例えば特別席なら一オンス(約三十一グラム)、以下客席次第。その為、実入りがどんどんかさばり、造幣局に行く必要にせまられた。
 当然ながら会計係はちょっと不安だ。だって未開地区だし、武装強盗も全くいないわけじゃない。

 時々ジム・ベイヘムが出没すると、誰かが犠牲にならざるを得なかった。ジムは山賊の頭目、本国から追われる身の英国人、つまり英国で逮捕令状が出ている。
 最近五年間、プーナ地区とヤラ地区のなわばりで、馬鹿騒ぎや強盗をやっている。一方では紳士でもあり、そう決めればそうできる人物だ。他方ではこれ以上ないほど冷酷、残酷にふるまうこともできる。
 だからサットン・バスコム歌劇団の会計係は内心不安だ。およそ千二百オンス(約三十七キログラム)の砂金の責任者である。安全な所へ運ぶ機会がない。
 危険を皆に打ち明けたが、相手にされない。ジム・ベイヘムなんて怖くないという。当然女性たちは心配だ。例えばマージョリー・ヒクソン。
 小柄なかわいい女性で美声の持ち主、女優として成功している。でも兄が大病を患いメルボルン病院に入院中で、当分、同嬢に頼りっきり。兄は帰国すれば本国に妻もいる。もし砂金に何かあればと、マージョリーはびくびくだった。
 会計係がぼやいて、
「誰も気にせん。俳優さんはやられないと思ってる。ベイヘムはバナワディの自宅にいるので、関係ないとさ。でも荷物係のクラクストンは俺と同意見だ。世事に通じている。数年ここを離れていたそうだ」
 荷物係のクラクストンはペラ・リバで入団。ある演芸団の元団員だったが、劇団が一年前につぶれてしまった。同氏も熱病にかかり、回復したときは革靴と、なけなしの金しか持ってなかった。
 サットン・バスコム歌劇団に拾われたのは、ちょうど荷物係の助手が欠員していたからだ。クラクストンが真の紳士ということすらも劇団にはどうでもよかった。いままで演芸をやっていた経歴だけで十分。専門さえ訊かない。
 団員のほとんどは世界中から採用され、女優も有名人ぞろい。まさに粋な連中だった。やがて荷物係のクラクストンは紳士と認められ、信用された。しかし、団員との間には、人知れず越えられない溝があった。
 女性特有…

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