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火の記憶
ひのきおく |
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作品ID | 60959 |
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副題 | 広島原爆忌にあたり ひろしまげんばくきにあたり |
著者 | 木下 夕爾 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本の詩歌 26 近代詩集」 中央公論社 1970(昭和45)年4月15日 |
入力者 | hitsuji |
校正者 | きりんの手紙 |
公開 / 更新 | 2022-08-06 / 2022-07-27 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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とある家の垣根から
蔓草がどんなにやさしい手をのばしても
あの雲をつかまえることはできない
遠いのだ
あんなに手近にうかびながら
とある木の梢の
終りの蝉がどんなに小さく鳴いていても
すぐそれがわきかえるような激しさに変る
鳴きやめたものがいつせいに目をさますのだ
町の曲り角で
田舎みちの踏切で
私は立ち止つて自分の影を踏む
太陽がどんなに遠くへ去つても
あの日石畳に刻みつけられた影が消えてしまつても
私はなお強く 濃く 熱く
今在るものの影を踏みしめる