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象徴の烏賊
しょうちょうのいか
作品ID60963
著者生田 春月
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の詩歌 26 近代詩集」 中央公論社
1970(昭和45)年4月15日
入力者hitsuji
校正者The Creative CAT
公開 / 更新2023-05-19 / 2023-05-15
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


或る肉体は、インキによつて充たされてゐる。
傷つけても、傷つけても、常にインキを流す。
二十年、インキに浸つた魂の貧困!
或る魂は、自らインキにすぎぬことを誇る。
自分の存在を隠蔽せんがために
象徴の烏賊は、好んでインキを射出する。

或る蛇は、常に毒液を蓄へてゐる。
至大の恐怖に駆られると、蛇は噛みつく。
致命の毒を対象に注入しながら
自らまた力尽きて斃れる旱魃の河!
或る蛇の技術は、自己防衛とその喪失、
夏夕の花火、一瞬の竜と天上する。

或る貝は、海底に幻怪な宮殿を築く。
あらゆる苦悩は重く、不幸は塩辛く、
利刃に刺された傷口は甘く涙を流す。
或る真珠の涙は、清雅な復讐である。
奸黠な商売の金庫に光空しく死せども、
美しい夫人の手に彼の涙は輝く。

或る植物は、常にじめじめした湿地に生え、
その身をあまりに夥多なる液汁に包む。
深夜、或る暗い空洞から空洞へ注ぎこまれ、
その畸形なる尻尾を振つて游泳する
或る菌はしばしば死と復讐の神である。
漠雲の中哄笑する、目に見えぬものは神である。



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