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壁と重石と
かべとおもしと
作品ID60984
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
入力者津村田悟
校正者かな とよみ
公開 / 更新2025-08-18 / 2025-08-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


山裾を走る電車の窓からみた
紋入りに染め上げたおおいをかけ
ふたつの車に積みあげた嫁入り道具が
いま村の端を出かかったところを
春はやいくもり日が暮れかけていた

荷物は運ばれるのだ
うすぐらい物置き倉
古ぼけた姑の箪笥と並ぶために
生まれた家と親とが
この荷物を背負わせ
娘を押し出す
娘は のろのろと家を出てゆく

荷物と娘と一束にして計量にかけ
むすめのいのちに手づけが打たれてしまった

荷物の中につめ込まれている
下落するヤミ米
税金の のこりの金で
買いあつめ 手に入れた
チリメンの 人絹の紋つき はおり

そして 積み込まれている
壁と 重石と カビの生えた昔がたり
目をつぶし ヒザをへし折る壁と 重石と 昔がたりと



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