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今日はよく晴れ上がって
きょうはよくはれあがって
作品ID60986
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
初出「ゆきのした 第十七号」1956(昭和31)年8月
入力者津村田悟
校正者かな とよみ
公開 / 更新2025-01-05 / 2024-12-31
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


今日はよく晴れ上がって
村じゅうの苗代に種がまかれた
鍬では切れない土のかたまり 切り株の切れ端を深く埋める
手で埋めて撫でてゆく
きれいに水をはって消毒した種をまく
雨のふらない風の吹かない晴れた日にまく
わたしは外へ立ちながら苗代の人だかりの方をながめていた

いろりの場所ほども耕されたらと笑われながら田圃に入り
足りないところは田圃を売り
病気の母を放っておき 湯もわかさず
破れた傘もそのままにして
わたしは少しずつ上手になっていった

田圃は減ってゆく
わたしは痩せながら四十が五十になってゆき
田圃と労働を愛していった
つかれたと思うひまもなく田圃に熱中した
熱中しながら愛していった
田圃と自分のはたらき

善意といい 真実といい
不労所得の中でのふるまいは空まわりに過ぎないと知った
田圃を愛する 仕事を愛する
愛すれば愛するほど痩せてゆくことの問題の持ってゆく
ゆきどころが見えるようにかんじることもできた
印を捺して金を借りる責任を持つ
金の出どころ 利息の行方など

自分の汗がいろいろの智恵をしぼり出す汗ともなってゆくことも知ることができた

競うように苗を植えてゆくそとめ
そとめさんらは酒をのむ
また来年もきますざという

うすをすって俵に米をはかるとき
はじめて稲を刈るとき
わたしはいそいそとかおをほてらし

頭にとどく稲束を背中にかついで小屋に運ぶ
雨の漏る屋根にはワラを刺し
小さい手に鍬の柄は細く
汗のためには眼鏡もはずし
一途に愛を深めていた

いましょんぼりと垣根にもたれてながめている
わたしの苗代に人の種がまかれた
ふたつの手術がわたしを田圃へ入らせない



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