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五十の春に 2
ごじゅうのはるに 2
作品ID60989
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
初出「現代詩」1956(昭和31)年9月号
入力者津村田悟
校正者かな とよみ
公開 / 更新2024-05-02 / 2024-05-01
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


いまようやくここまで歩いてきたところだ
誰かが呼んだと思うときもあったが
それは空耳だった
振り返って返事をしているわたしに
呼び止めたと思った人は気のつかぬ如く
とっとっと先の方を歩いて行った
わたしは一人とぼとぼここまでたどりついた
花の咲く頃には却って身を細くして
自動車をよけるような恰好になったものだ
ようやくここまでたどりつき
山道にさしかかったところだ
この山道を入ってゆくと道が分からないようにもなったり
高い崖や 危うい海岸へ出るようなことがあるかも知れない

誰もわたしを呼び止めないように
もう返事をするひまもない



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