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メランコリア
メランコリア |
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作品ID | 60994 |
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著者 | 三富 朽葉 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本の詩歌 26 近代詩集」 中央公論社 1970(昭和45)年4月15日 |
初出 | 「創作 第一卷第七號」東雲堂書店、1910(明治43)年9月1日 |
入力者 | hitsuji |
校正者 | きりんの手紙 |
公開 / 更新 | 2022-08-14 / 2022-07-27 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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外から砂鉄の臭ひを持つて来る海際の午後。
象の戯れるやうな濤の呻吟は
畳の上に横へる身体を
分解しようと揉んでまはる。
私は或日珍しくもない原素に成つて
重いメランコリイの底へ沈んでしまふであらう。
えたいの知れぬ此のひと時の衰へよ、
身動きもできない痺れが
筋肉のあたりを延びてゆく……
限りない物思ひのあるやうな、空しさ。
鑠ける光線に続がれて
目まぐるしい蝿のひと群が旋る。
私は或日、砂地の影へ身を潜めて
水月のやうに音もなく鎔け入るであらう。
太陽は紅いイリュウジョンを夢みてゐる、
私は不思議な役割をつとめてるのではないか。
無花果樹の陰の籐椅子や、
まいまいつむりの脆い殻のあたりへ
私は蝿の群となつて舞ひに行く。
壁の廻りの紛れ易い模様にも
ちよつと臀を突き出して止つて見た。
窓の下に死にゆくやうな尨犬よ。
私はいつしかその上で渦巻き初める、
………………
………………
砂鉄の臭ひの懶いひとすぢ。