えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

メランコリア
メランコリア
作品ID60994
著者三富 朽葉
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の詩歌 26 近代詩集」 中央公論社
1970(昭和45)年4月15日
初出「創作 第一卷第七號」東雲堂書店、1910(明治43)年9月1日
入力者hitsuji
校正者きりんの手紙
公開 / 更新2022-08-14 / 2022-07-27
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より


外から砂鉄の臭ひを持つて来る海際の午後。
象の戯れるやうな濤の呻吟は
畳の上に横へる身体を
分解しようと揉んでまはる。

私は或日珍しくもない原素に成つて
重いメランコリイの底へ沈んでしまふであらう。

えたいの知れぬ此のひと時の衰へよ、
身動きもできない痺れが
筋肉のあたりを延びてゆく……
限りない物思ひのあるやうな、空しさ。

鑠ける光線に続がれて
目まぐるしい蝿のひと群が旋る。
私は或日、砂地の影へ身を潜めて
水月のやうに音もなく鎔け入るであらう。

太陽は紅いイリュウジョンを夢みてゐる、
私は不思議な役割をつとめてるのではないか。

無花果樹の陰の籐椅子や、
まいまいつむりの脆い殻のあたりへ
私は蝿の群となつて舞ひに行く。

壁の廻りの紛れ易い模様にも
ちよつと臀を突き出して止つて見た。

窓の下に死にゆくやうな尨犬よ。
私はいつしかその上で渦巻き初める、
………………
………………
砂鉄の臭ひの懶いひとすぢ。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko