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猫六題
ねころくだい
作品ID61017
著者寺田 寅彦
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第十二巻」 岩波書店
1997(平成9)年11月21日
初出「東京朝日新聞」1908(明治41)年9月1日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2022-11-28 / 2022-10-26
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この頃猫の話が流行るからここにも少しばかり集めてみる。

猫と三味

 三味の音は何処で出るといえば無論三筋の絃から起るが、絃自身から直接に空気に伝わる音は割合に弱いものである。大部分の音は絃につれて振動する胴に張った皮から空気に伝わる。単に絃を張った皮のみならず裏の皮からも伝わる。それだから三味を弾く時には裏の皮を身体にくっつけては駄目な訳であろう。要するに三味線の音の大部は胴に張った猫の皮から出ているのである。

猫のピアノ

 昔物好きな人が猫ピアノというものを作った事がある。箱の中にいくつも仕切りをしてその中に一つ一つ猫を入れておく。箱の前の鍵盤のようなものの一つを指で押すと槓杆の仕掛けで一疋の猫の尻尾をぐいと押す。すると猫がにゃあと鳴く。数疋の猫がそれぞれ高低の異った鳴声を出すようにしてあるので、うまく鍵盤をたたいてやれば猫の音楽が出来るというのである。嘘のような話だがこういう話が残っている。

猫の宙返り

 猫を倒につるして高い処から落せば空中でくるりと身をかわしてうまく四つ足で立つ。これは何でもないような事だが、どうして猫が廻転するかという事は昔から物好きな学者の間で真面目な問題となっている。猫の落ちるところを活動写真にとって研究した人もある。先達てドイツのある科学雑誌に猫の宙返りの真似をする雛形が載せてあった。厚紙か何かの筒の横腹から四つ足を出したものが猫の胴になりその一端に薄っぺらな短い尻尾が付いている。この猫の腹の真中にある穴から糸が出ている。この糸で雛形を倒につるす。その時尻尾は下に垂れているが、糸を切って落すと同時にバネ仕掛けで尻尾がくるりと百八十度廻転する、そのはずみで胴体も宙返りをして四つ足で立つというのである。尻尾の短いほとんどないような猫はどうするだろう。

猫と電気

 二つの物を互いに摩擦する時一方に陽電気が起れば相手の方には陰電気が起る。しかし同じ物でも擦り合せる相手に依ってあるいは陽になる事もありまた陰になる事もある。例えばガラスなどは絹で摩擦すれば陽電気を帯びるがフランネルで擦れば陰電気を生ずる。ところが猫の毛皮は大抵の物と摩擦すれば陽性になるにきまっている。ネルとでもガラスとでもまた絹とでも何が相手になっても陽電気を生ずる。それで昔の電気学者が種々の物体を陽陰の順に列挙した時に猫の皮を陽の方の首位大関の位置に上げた。その後静電気の実験に猫の皮は附き物となったのである。

猫の保護色

 猫の中に眼瞼の上の処だけ色がついて、眠っている時でもちょっと眼を明いているように見えるものがある。ある人はこれを一種の保護色の例であると論じている。

猫の智慧

 ある人の飼猫は主人の居室で椅子の上に登って呼鈴のボタンを押しボーイを呼出す癖があった。またある猫は料理番が台所で居眠りをして火事を起しかけたのを主人に急報した。それ…

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